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週刊 紫眼の塔@DARK KINGDOM3

ここは、定期更新型の無料・ブラウザゲーム「DARK KINGDOM3」の結果内に出していた文章を、記事として記録していた別ブログから、サルベージしてきた文章群です。

定期更新型? DARK KINGDOM3? どこが舞台の話で元ネタは? 週刊なのに月毎? 等々説明が必要な部分が多々ありますが、全て説明すると長くなるので割愛します。分かる人だけ分かって頂ければ。私自身が「一箇所に記事をまとめておきたい」という、先送りしていた小さくも面倒な作業(自己満足)を実行しただけですので‥

イブラシル暦 683年イブラシル暦 684年イブラシル暦 685年
※落丁により未発行 01月 週刊 逝者落つる谷
02月 週刊 灯台の灯 02月 週刊 淑女の花
03月 週刊 太陽の横顔 03月 週刊 鍾乳洞新名物こぼれ話
04月 週刊 レテヒアの恋占い 04月 週刊 静寂なる海
05月 週刊 監視塔の咆哮 05月 週刊 駆け抜ける風
06月 週刊 真紅の宝玉 06月 週刊 命を届けた風
07月 週刊 紫眼の塔 創刊にあたって 07月 週刊 ブラックドラゴン 07月 週刊 春雷、秋雷
08月 週刊 紫眼の塔 08月 週刊 星の巫女 08月 週刊 樽齧り達の夜
09月 週刊 モルドールの樽 09月 週刊 無謀なるポトロント 09月 週刊 最後の一葉
10月 週刊 ファントムミスト 10月 週刊 王様のチェス・前編 10月 週刊 シュヴァルツのリボン
11月 週刊 盟約の樫留 11月 週刊 王様のチェス・後編 11月 週刊 天国と地獄
12月 週刊 ミルシアの耳 12月 週刊 流星の降る丘 12月 週刊 五弦が爪弾く
イブラシル暦 686年イブラシル暦 687年イブラシル暦 688年
01月 週刊 白眼の碑林 01月 週刊 霧の峡谷 01月 週刊 最後の晩餐(仮称)
02月 週刊 白眼の風説 02月 週刊 雷神の紋章 02月 週刊 カタコンベに眠る者
03月 週刊 緊急警報! 03月 週刊 英雄の居た風景 03月 週刊 亡者の宴
04月 週刊 ピクシーフロア 04月 週刊 トライアード 04月 週刊 春を呼ぶ実
05月 週刊 古の狩人達 05月 週刊 旅の必需品 05月 週刊 終焉の組曲
06月 週刊 無名の墓標 06月 週刊 水路の果て・前編 06月 週刊 ミルシアサンド配達人
07月 週刊 シーサイドハウス 07月 週刊 水路の果て・後編 07月 週刊 マルティア大森林快晴につき
08月 週刊 アダマントの王 08月 週刊 古灯台リフォーム計画 08月 週刊 猛き胃袋の王国
09月 週刊 大平原の疾風 09月 週刊 虹を描きたくて 09月 週刊 釣匠
10月 週刊 虚空に眠る宝物 10月 週刊 夢か、現か 10月 週刊 太陽と月
11月 週刊 欠けた岩は戻らず 11月 週刊 神の玉座 11月 週刊 爆薬魔晶
12月 週刊 真紅の宝石箱 12月 週刊 名店の扉 12月 週刊 アルヴヘイム包囲戦
イブラシル暦 689年その他 
※落丁により未発行 謝意※5周年の挨拶
02月 週刊 連なるもの
03月 週刊 王の帰還
04月 週刊 古灯台リフォーム計画?
05月 週刊 イブラシルゴシップ
06月 週刊 未来と過去を結ぶ環
07月 週刊 樽齧り、土産化!
08月 週刊 バルバシアの名店
09月 週刊 最果ての果てにて
10月 週刊 紫眼の塔

 

イブラシル暦 683年 7月

週刊 紫眼の塔 創刊にあたって

旅人達は新しい土地にその足を踏み出すとき、

その眼を凝らし耳を澄ませ、視界の先から流れる風を肌で感じ、

五感の全てでその新鮮さを味わうだろう。

 

このイブラシル大陸は、そういった旅人心を

十分に満足させるだけの魅力を持った、素晴らしい土地である!

‥私は、そう胸を張れる。

 

私が改めて語るまでもなく、この土地には数多くの風光明媚な名所、

受け継がれる伝統工芸、地方独特の自然とそれが産みだす特産物が存在する。

‥だがその他にも、知る人ぞ知るイブラシル大陸の良さ、

魅力がまだまだ眠っている事も、私は知っている。

 

この紙面においては、そういった知る人ぞ知る、

いわゆるマイナーな名所、伝統、特産品などを取り上げていきたいと思う。

 

戦乱により長らく手を携えていた諸国の国交が断絶した一方で、

霧が晴れた事によって再びアストローナ大陸との間の航路が回復した。

 

きっかけはどうあれ‥新たに訪れる旅人達に、このイブラシルを愛してもらえるよう‥、

可能な限り、この書を執筆していきたいと思う。

 

いつの日にか戦乱が収まり、街道が以前のような賑わいを見せるようになる事を願って‥。

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イブラシル暦 683年08月

週刊 紫眼の塔

イブラシル大陸の南海に位置する不思議な塔の事を、

ご存知という読者は少ないであろう。

起伏の激しい南海の海底が生み出す複雑な海流や不規則な濃霧は、

大陸南方の航路を阻む大きな要因だと言える。

 

(但し、アルブヘイム東岸側にある『グニタ荒野』『亡者の沼地』といった

物騒な場所も、無視できない要因ではあるだろう。)

その南海の伝承の一つともなっている、とある塔こそが、

今回紹介する場所である。

 

この南海には、霧の只中に突然出現する巨大な塔が

猟師によって目撃された、という例が幾つか存在している。

 

霧の作用によるものかは不明だが、

その外壁は遠目に紫色へと染め上げられていると言われるその塔を、

筆者は大陸に点在する秘境の一つである五色の塔から名を拝借し、

『紫眼の塔』と呼ぶ事にした。

 

大陸南東に位置する青と南西の赤の中間にある事とも関連性が

あるかも知れないが、そもそもが五色の塔の存在自体が謎に包まれており、

目撃例自体の少ないこの塔との関連性を 言及することは難しい。

 

この塔の謎が解明されるのは、きっと遥か未来の事になるであろう。

霧の中に浮かぶ塔の逸話は不気味さや異様さを際立たせている。

 

しかし私はそれ以上に、何処か神秘的な響きを感じるのだ。

 

この逸話との出会いは、その後の私を『まだ見ぬイブラシル』へと誘う

最初の一歩となったのである。

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イブラシル暦 683年 9月

週刊 モルドールの樽

リーブルフォートの船乗り達には、敬意を表さずにはいられない。

 

この地に面する海が永らく深い霧に覆われていた、という事は

周知の事と思うが、怪我の功名とはこの事だった。

 

霧によってアストローナ航路を失って以降の彼らは、

より遠方に位置するロデやアステリアとの交易に活路を求め、

現在のイブラシル大陸を海で結ぶ交易路を構築。

これまで以上に町を潤す事となった。

 

そのリーブルフォートの町外れに、髪飾りや首飾りが捧げられた、

朽ちかけた樽がひっそりと祭られている。

 

この樽の元に訪れるのは決まって女性か小さい子供達なのだが、

その理由はこの樽が持つ逸話に由来する。

 

何を隠そうこの樽こそは、かつて北方の航路を開拓した

偉大なる船長モルドール=オブライエンが若き船乗り時代に

イブラシル海峡で遭難した際、 その命を救い

故郷のリーブルフォートへ生還せしめた樽なのである。

 

記録によれば、枯渇していく町を救うべく出航した船は

深い霧の中で立ち往生する内、嵐につかまり難破した。

 

この時唯一生き残ったのが、船長の息子モルドールであった、とされる。

 

海峡越えの困難さを思い知った彼は、これも困難とされた

北方航路の開拓に挑み、成功を収めた。

 

彼の偉業を導いた樽の助けを思えばこの樽が祀られるのも当然、と思うが、

船乗り達にとっては、この樽を運んだ船が沈没した事には変わりなく、

不吉の象徴として遠ざけたがった。

 

一方、航海の成功以上に船乗り達の生還を望んだ家族達にとって、

英雄を運んだこの樽こそは遠い神以上にすがる価値のある存在と考えた。

 

結果、この樽は船着場とは反対側、街外れへと置かれる事となったわけである。

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イブラシル暦 683年10月

週刊 ファントムミスト

今回は、かの黒き霧がリーブルフォートにもたらした、

悲劇的な逸話について紹介しようと思う。

 

消失し20年が経った今も黒の霧についての研究は続いているが、

発生理由や消滅の経緯・影響等が普通の霧とは全く異なるという事以外は、

今でも多くの事が謎に包まれている。

 

今回の逸話は、その謎の一つとされる霧の幻覚作用がもたらしたものだ。

 

霧の中へと出港した船の一つが、漂流の果てに奇跡的に帰還を果たした。

小さい船ではあったが、幸い怪我をした者もいなかったと言う。

 

ただし、船で一番若かった青年・エドガーの精神を除いては。

 

エドガーは見張りの最中に霧の中に女性の姿を垣間見たが、

それが街に残してきた婚約者だった、と口にしていたが、

帰還後のエドガーは街に残していた当の婚約者自体を、

全く認識できなくなってしまったのだ。

 

しかも、その事を除けば、彼自身は全く正常な意識を保っていたにも関わらず、だ。

 

エドガーも婚約者も天涯孤独の身だったが、

婚約者や船乗り仲間の家族による治療が続けられた。

 

しかし、症状は数ヶ月経っても消える事は無く、やがてエドガーは

愛する人の面影を霧の中に求め、霧の海上へと姿を消した、という。

 

黒の霧自体、あるいは霧に潜む何かが、彼の精神に

奇妙な作用を及ぼした、とされるが、真相はもはや分からない。

 

しかし、かの霧が死とは異なる方法で

孤独という悲劇をもたらしたのは間違いないだろう。

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イブラシル暦 683年11月

週刊 盟約の樫留

マルティア大森林はイブラシルに数ある森林の中でも、

比較的危険の少ない街道とされる。

 

とはいっても、それはあくまでも冒険者や護衛を雇った隊商にとってであり、

普通の旅人や周辺の住人にとっては多くのモンスターが脅威である。

 

この地を闊歩する一大勢力はなんと言ってもオーク達であろう。

 

野生の獣でも頭数と連携を図って獲物を襲うが、

彼らには戦士階級と呪術者階級があり、狩りの際も

役割分担が行われている分、脅威は増す。

 

そんなオークの生態の一つは、人間社会にも馴染みのあるものだ。

 

戦士の傷を癒す呪術者には雌が多く、呪術者を守る戦士には雄が多いのだが、

互いを狩りのパートナーとする際、彼らはパートナーを組む証として、

互いが手折った樫の枝を衣服に結えあうのだ。

 

以降は、彼らは倒した獲物の一部を互いの衣服へ加えていく。

 

私たちの抱く感覚では、とてもそれとは見えないほど

彼らの衣服はおぞましいものだが、あのごちゃごちゃした服装の一部に

そういった要素が含まれるのだとしたら非常に興味深い。

 

ちなみに余談ではあるが、

ここ最近オーク達が多く身に着けているのは、銅製の指輪や耳飾が多いという。

それを身につけた獲物が多く森を通っているという事だ。

 

心当たりのある旅人達は、ご用心を。

 

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イブラシル暦 683年12月

週刊 ミルシアの耳

さて、サンドイッチといえば、皆さんは耳ありと耳なし、どちらが好みであろうか。

私は耳あり派なのだが、どちらかと言うと耳なしが多数派なのはではないだろうか?

 

ミルシア名物ミルシアサンドは、皆さんご存知のとおり耳なしなのだが、

それでは、ミルシアサンドを作るときに余ってしまうパンの耳はどこにいくのだろうか?

 

ここで皆さんに紹介したいのが、そのものズバリ、ミルシアの耳という逸品だ。

 

当然、話の流れからして生き物の耳や土地を指すのではなく、れっきとしたお菓子である。

細長い耳を丸めて卵と砂糖につけて焼き上げる、安価で手軽なお菓子だ。

くるっと丸まった形が耳に見えなくも無い。

 

このお菓子、余ったパンの耳を捨てるのが勿体ないと思った主婦が開発したもので、

ミルシアサンドがメジャーになっていくにつれ、ミルシア内でも普及しているという。

 

パンの耳好きとしては興味深いお菓子ではあるが、

サンドイッチと一緒に耳も食べたい身としては、いろいろ悩ましい問題なのだ。

 

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イブラシル暦 684年02月

週刊 灯台の灯

リーブルフォート南部に聳え立つ灯台は、

俗に古灯台と呼ばれている。

 

しかし、大陸の緊張が解け国交が回復すれば、

いずれ「古」の文字が取れ、機能が戻ることだろう。

 

そんな古灯台ではあるが、完成間もない頃にこんな逸話があったという。

 

灯台の光に魅入られ、灯台の防人となった一人の男が居た。

 

炎の放つ光をレンズで収束するその構造上、レンズを磨き

光量を維持する事が防人の責務ではあるが、

灯台をこよなく愛するその男は、特にレンズを磨く仕事に執心し、

その甲斐あってか、灯台の放つ光はこれまでより十里は

遠く届くようになった、とまで言われた。

 

そんな真夏の良く晴れた日。

 

周辺の村人達は、巨大な影と羽音が

猛烈な速さで灯台へと向かうのに気付いた。

 

恐怖から立ち直り灯台へ向かった村人達が目にしたのは、

無残に噛み砕かれた防人の男だった。

 

村人達は、灯台の光の輝きを目にした龍が、

そこに財宝があると勘違いして襲ったとのだと噂しあったという。

 

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巻頭付録 ミニチュア古灯台ストラップ

巻末挿絵 灯台の見下ろす夕陽

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イブラシル暦 684年03月

週刊 太陽の横顔

ミルシアからティターニアへ向かう途上、

マルティア大森林を抜けるとミレット山道へと入る。

 

斜面の殆どが荒地で覆われたこの山道は、

緑に覆われた麓までとはうって変わって一見殺風景ではあるが、

密かな名所とも言うべき、息を呑むような光景を潜ませている。

 

ティターニア側からミルシア側へと下る途中に、

四方を高い崖に囲まれたポイントが有る。

標高こそ高いもののどの方角にも高い山々の斜面が立ち塞がり、

見下ろせる箇所も無い。

 

しかし、太陽が山々へかかり始めたら、

夕日の照らし出す東側斜面に目を向けて頂きたい。

風雨に磨かれた平らな斜面に、

美しい女性の横顔−俗に太陽の顔と呼ばれる−が浮かび上がってくるのだ。

 

西側の峰と太陽の角度、斜面の微妙な起伏が織り成す奇跡。

 

まさに光の彫刻とでも言うべきこの光景だが、

見る事の出来る季節と時間は限られている。

 

だが、これぞ至高の横顔である、という時間帯などについては、

見る者によって判断が分かれているようだ。

 

きっとあなたもこの地に立ち寄ったならば、

あなただけの横顔を見つけることができるだろう。

 

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巻頭付録 ミレット四景ポートレート

巻末挿絵 太陽の横顔プリントTシャツ

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イブラシル暦 684年04月

週刊 レテヒアの恋占い

ティターニアの特産品であるリボンは

どこからの観光客にも人気の逸品だが、

このイブラシル中で最もリボンを愛してやまないのは、

やはりティターニアの少女達であろう。

 

ティターニアには、これらのリボンを使った

この地方ならではの占いがある。

 

リボンには材質や形状等さまざまなものが有るが、

使用するのは細長いタイプを数本。

 

それらを両手に包み、気になる彼を思い浮かべ

彼をイメージした一本を決める。

 

そしてそれらを足元に一度に落とし、

選んだ1本と最も垂直に近く交わった1本を身に付ける。

というものだ。

 

こうして選んだリボンにどんな力があるのか?

と言うと、身につけている事で何気ない会話や

ちょっとした巡り合せで彼との距離が縮んでいき、

やがて互いを結びつけるのだという。

 

この占いが冠するレテヒアとは、

このおまじないを通じて意中の少年と結ばれ、

多くの子孫に看取られるまで

添い遂げたとされる女性の名である。

 

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巻頭付録 マナクリスタル柄リボン

巻末挿絵 リボン売り屋台の看板

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イブラシル暦 684年05月

週刊 監視塔の咆哮

バーリー要塞に程近いティターニア西の守りの要、ウィート監視塔。

 

世に名を馳せた英雄は数多いが、

ここにもかつてその名を轟かせた豪勇センプター・オデロがいた。

 

彼が傭兵として駐屯している間、

夜盗や敵兵の類はおろか怪物達すら

この塔には近付かないと噂されたものだ。

 

人並みはずれた巨体と怪力の持ち主ながら槍と弓の名手でもあり

豪胆にして朴訥で誠実、人々にも慕われていたセンプターであったが、

その彼の最大の弱点は嵐さながらと評されたそのいびきであった。

 

はじめ兵達と寝食を共にしていたのだが、

その余りのいびきに兵達の寝不足が深刻となり

結局はセンプター自身の申し出で監視塔屋上に

野営テントを張り、そこで寝るようになった。

 

それからと言うもの、

彼のいびきは監視塔の外へと響き渡るようになり、

彼を恐れる賊や怪物達は

「いびきが聞こえる間は塔にセンプターがいる」と

塔付近へは近付かなくなった。

 

また、塔の屋上で夜通し見張りを行う兵達にも常にいびきが聞こえる為に

夜間を担当する兵達の居眠りも無くなったと言われる。

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巻頭付録 ティターニア軍徽章シール

巻末挿絵 ウィート監視塔跡

応募プレゼント  最新型安眠枕

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イブラシル暦 684年06月

週刊 真紅の宝玉

ヘステイア高地にモンスター多しと言えど、

その危険度においてギガースの右に出るものはいないだろう。

 

圧倒的な巨躯と攻撃力はもちろん、

この地を跋扈する獣や亜人、果ては魔法生物、不死の眷属すら

捕食の対象とする程の雑食性は、当然人間にも向けられる。

 

だが、そんな彼らにも忌避する食べ物が有ると言う。

 

ヘステイア高地を渡っていたキャラバンがギガース達に急襲され

命からがら逃げ回った翌朝、荷物の元へと戻ってみると

運んでいた食料も馬もあらかた食い尽くされていたのだが、

 

スイートベリーの入った木箱だけは、

蓋が破られただけで全くの手付かずだったという。

 

匂いが苦手、水気の多い食べ物を嫌う、赤い色が苦手、等

ギガースのスイートベリー嫌いの理由は諸説有るが、

スイートベリーを食さない、という点に関してはほぼ事実と目されている。

 

おかげで、ロデからの旅人達はスイートベリーを「真紅の宝玉」と珍重し、

スイートベリーを持ち歩くようになった程だ。

 

ただし、噂を過信してはいけない。

 

ギガース達は確かにその赤い実を食べないかもしれないが、

恐れて近付かない程に嫌っているわけではないからだ。

 

赤い実だけを残し、人間の居た痕跡が消失、という事態を招かないよう、注意頂きたい。

 

※お詫び

本誌掲載の際、一部の記事に乱丁が見られました。

ご購読された皆様には大変ご迷惑をお掛けしました。

 

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巻頭付録 ミニベリーコロン

巻末挿絵 ヘステイア高原の夕焼け

応募プレゼント  ルビー農園スイートベリー12個

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イブラシル暦 684年07月

週刊 ブラックドラゴン

ヴェーラス大湿地帯はリダとロデという二つの街に挟まれた

場所であるが、この地に定住しようと言う人間は少ない。

 

海水の塩分を含んだ泥ばかりであるこの土地では、

多くの産業が根付きようが無いからだ。

 

一方、この地に長く定住する者たちもいる。

 

彼らが生活の糧としているのは、イブラシル屈指の珍味、

通称“ブラックドラゴン”と呼ばれる大型の泥ハゼだ。

 

ここで捕獲された泥ハゼの多くは、リダやロデ近辺の村で

干物や燻製などにされ、他の街へと売られていく。

 

ところでブラックドラゴンという通称の由来であるが、

かつてこの近辺を脅かしたドラゴンと

色や形が似ているから、だという。

 

去っていった恐怖と苦難とを、

今は食べることで過去のものとする。

 

これもまた、人のもつ強さの一つなのであろう。

 

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巻頭付録 ブラックドラゴンタトゥーシール

巻末挿絵 ブラックドラゴン乾燥塔

応募プレゼント  イブラシル珍味詰め合わせ

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イブラシル暦 684年08月

週刊 星の巫女

アステリア国立の魔術大学で有名なエルクアールは、

魔術に限らずありとあらゆる学問に造詣が深い。

 

難解に考えがちでは有るが、

学びとは我々一般人の身近にも

様々な形で存在するものだ。

 

今回紹介する星の巫女は、

まさに我々一般人にとって身近な

とある分野に関する権威的存在なのである。

 

酒場はある程度人の集まる場所であれば、

都市から村に至るまでどこにでもあるものだ。

 

星の巫女(これは通称であり実名は明かされていない)は

30年以上にわたって、大陸津々浦々、

大小問わず数多くの宿屋や酒場を巡り、

振舞われる料理や酒などの味や店自体の雰囲気、

主人の人となりや設備・食器に至るまでをつぶさに記し、

総評を星の数でランク付けしているのだという。

 

この星の巫女がまとめた書物は、

毎年数冊の写しが作られ大学図書館とアステリア国庫、

エルクアールの商組合と冒険者ギルドへ寄贈されており、

近年は同盟国であるティターニア女王へも贈られるようになった。

 

いずれかの施設を利用できる機会があるならば、

閲覧してはいかがだろうか。

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巻頭付録 伝説のナイフとフォークレプリカ

巻末挿絵 「星の道標」681年号表紙

応募プレゼント  「星の道標」683年号

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イブラシル暦 684年09月

週刊 無謀なるポトロント

大瀑布ほど壮大かつ幻想的な場所は、

イブラシル大陸じゅう探しても無いかもしれない。

 

落差の激しい地形の中て、透明度の高い大量の雪解け水が弧を描く姿は、

あらゆる角度において死角の無い美しさを備えている。

 

そんな大瀑布を独自の視点で味わいたいと考えたのが、

ポトロント三兄弟だ。

 

長兄は泳ぎの達人であり、大瀑布を泳いで下り、

中から滝の視界を味わおうと試みたが凄まじい水量と圧力に

泳ぎを維持する事が出来ず、滝壺で命を落としてしまった。

 

次兄はカヌーの達人であり、長兄の轍を踏むまいと

カヌーでの突破を試みたが、複雑な水流はオール捌きで対応できるものではなく、

長兄同様に命を落としてしまった。

 

残った三男は、長兄のような泳力も次兄のような操船術も持たなかったが

兄達の成し得なかった滝下りの為に知恵を絞った。

 

二年の時を経て大瀑布を訪れた三男は、丈夫な樽を持ち出した。

いかなる嵐でも破壊されない樽ならば、滝壺をやり過ごせると確信したからだ。

 

三男の目論みは成功し、見事生還を遂げた。しかし、その表情はとても暗いものだった。

「樽の中からは、滝が見えなかったんだ」

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巻頭付録 虹色雨合羽

巻末挿絵 大瀑布にかかる虹

応募プレゼント  大瀑布遊覧券

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イブラシル暦 684年10月

週刊 王様のチェス・前編

チェスは至高のボードゲームとして、

古今東西知られている存在である。

 

その歴史もさることながら、ゲームで使われる駒の形態も実に多彩で、

中にはとんでもない価値を持つ駒と言うのも存在している。

 

今回と次回は、2回に渡ってイブラシルでも価値の高いチェスをご紹介しよう。

 

 

第5位:メタル・チェス【約110,000シリーン】

 

カッパー(ポーン)、ティン(ルーク)、

アイアン(ナイト)、シルバー(ビショップ)、

ゴールド(クイーン)ミスリル(キング)

から構成されたチェス。

 

豪商や大成した冒険者が所持する

 

 

第4位:マーメイド・チェス【約240,000シリーン】

 

イブラシルの海域に生息する様々な貝殻を

百年前の名工・ブルエールが彫刻した逸品。

 

東海岸に多い乳白色の貝殻と、

西海岸に多い桃色〜薄紅色の貝殻の2種を用いており、

貝殻の色調と駒の形を組合せを生かした造形は見る者を魅了する。

 

 

第3位:詩人のチェス【約500,000シリーン】

 

アステリア魔術大学で開発された音を奏でるチェス。

盤面に駒を置く(初期位置除く)と盤面から音曲が奏でられる。

 

盤面とそこに配置する駒の組合せによって全て異なる音楽が記憶されており、

プレイする者を退屈させない作りとなっている。

 

《続く》

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巻頭付録 携帯用マグネットチェス

巻末挿絵 マーメイド・チェス

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イブラシル暦 684年11月

週刊 王様のチェス・後編

今回も、前回に引き続きイブラシル有数のチェスを紹介していこう。

 

 

第2位:鮮血将軍のチェス【約1,200,000シリーン】

 

イブラシル古代史に名を残す

将軍・アプラゾリンゲルが所有していたチェス。

 

アプラゾリンゲルは当時の王弟の次女という身分にあり、

優雅なる風貌と所作で宮廷でも注目の的であった。

 

しかし、生涯の半分を過ごした戦場においては、

味方の兵を容赦なく切り捨てる苛烈な戦術を発揮し

連戦連勝を飾った事で“鮮血将軍”と渾名されていた。

 

その彼女が戦場で持ち歩いていたのが、

白磁と黒曜石で作られたチェスである。

 

怯える兎のように偽装した囮の駒に

相手を食いつかせ引き込む戦術は、

盤上でも彼女を無敵たらしめたと言われる。

 

 

第1位:王様のチェス【約5,000,000シリーン(推定)】

 

失われた古代魔法文明の力が施された

16m四方に及ぶ巨大なチェス盤。

 

この巨大なチェス盤で用いる駒は、人間そのものであった。

チェス盤の魔力により姿と魂を封じ込められた人間は、

盤上を動く幻像と化すのだ。

 

チェス盤を所有していた王族の暴政の一端として、

侵略地や支配地から選りすぐりの見目麗しき男女が連れ去られ

犠牲になった、正にいわくつきの品。

 

現在は所有者不明とされているが、

一説ではかの荒ぶる王族達が眠りにつく地にて

その御霊を鎮めるべく安置されているのだという。

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巻頭付録 携帯用マグネットチェス(シルバー)

巻末挿絵 王様のチェス

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イブラシル暦 684年12月

週刊 流星の降る丘

聖者の丘はイブラシルの中でも屈指の景勝の地でもある。

 

南方には雪を冠する山脈が鎮座し、

北方には穏やかで青く映える海が広がる。

 

気候にも恵まれる事が多いので、

やや不便な位置にも関わらず訪れる人が多い。

 

特にこの地は、

毎年冬の時期に北の夜空を横切る流星群の観測地でもある。

 

この地が聖者の丘と名付けられた説にはいくつか有るが、

そのうちの一つが原始信仰における

聖人が悟りを開くためにこの丘へ鎮座した、という説だ。

 

その聖人は、神々の救い無く死んでいく人々の命の意味を自問し続け、

飲まず食わずで実に1年以上そこに座り続けたという。

 

答えを見出せないまま、

自問を中断した聖人が見上げた満点の星空に、

冬の風物詩であった無数の流星が次々と降り注いだ。

 

聖人はその降り注ぐ流星を見る内に悟りへと辿り付き、

まさにその瞬間以降聖人となったのだという。

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巻頭付録 双流星のピアスセット

巻末挿絵 昨年度の流星雨

応募プレゼント  流星雨プラネタリウムライト ※当選者 蜃様(107)

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イブラシル暦 685年01月

週刊 逝者落つる谷

大陸の東西を結ぶルートは幾通りか存在するが、

この谷のあるルートを好んで通過しようという旅人は居ないだろう。

 

怪物たちの存在も危険だが、

申し訳程度に切り拓かれた絶壁の間道は細く頼りなく、

身を休める場所を確保するだけでも困難な場所なのだ。

 

かの聖人も、かつてこの谷を西から東へ渡った事があった。

 

幼き頃の聖人は当時

西方にあった王国の王族の一人であったが、

反乱の憂き目に会い王は処刑。

 

一族郎党はこの谷から東へと追放される、

死にも等しい流罪を受けた。

 

軍に追い立てられる様に老若男女は谷を掘り進み、

一人また一人と斃れ逝く中

谷を渡り切れたのは聖人たった一人であった。

 

この逸話から経る事、千数百年。

現在、東西を結ぶ街道の要であった港町アムスティアは、

三方を砦で覆われた要塞と化した。

 

しかし、かの地を追われた哀れなる人々が切り拓いた

過酷な街道ではあるが、

皮肉にもそのか細い爪跡を逆に辿り、

かの地の皇帝の喉元へ冒険者達が迫っている。

 

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巻頭付録 旅の守護精ブレスレット

巻末挿絵 谷を照らす朝日と鳥たち

応募プレゼント  高性能折りたたみテント

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イブラシル暦 685年02月

週刊 淑女の花

リダの東方にある海岸線から北方を見渡すと、

小高い丘が見える。

 

その丘の上、草原の緑色と岩々の白色の中に

一際目を引く紫色が混じっているのに気付くだろう。

 

その紫色の花の名は

「イブラシルキキョウ」と呼ばれるが、

古くから伝わる別名「淑女の花」の方が

イブラシルでは通りが良いだろう。

 

「淑女の花」という別名の所以は、

自生するこの丘以外では、全く育成できない事にある。

 

訪れた旅人や、商人に依頼された冒険者、

調査に来た学者などが土や種を持ち帰り育成を試みたが、

ほんの数日で色を喪い、やがて枯れてしまった。

 

こうした別の場所では決して根付かない特性を、

「淑女」という言葉に結びつけたのだ。

 

しかしこの謎は、とある偶然から解かれることとなる。

 

偶然とは、この丘の西方に発見された鍾乳洞の存在である。

 

「帰らず」と冠されるだけあり、

過去に発見された鍾乳洞とは桁違いの規模である事が判明しているが、

この鍾乳洞を形成する地層は

海岸近くの丘の表層近くに達するのだという。

 

この丘の表層は土であるが、

土の下の白い石灰岩の層が所々に点出している。

 

石灰岩は雨等により

徐々に溶け出していく事が判明しているが、花や土に加えて、

適度に土へと染み出す石灰岩の成分、

というパーツが育成に必要だった、というわけだ。

 

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巻頭付録 淑女の花の押し花栞

巻末挿絵 群生するイブラシルキキョウ

応募プレゼント  石灰石配合・淑女の花用プランター

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イブラシル暦 685年03月

週刊 鍾乳洞新名物こぼれ話

開拓されて間もない帰らずの鍾乳洞だが、

はやくもこの地になぞらえた名物が生まれている事を御存知だろうか?

 

鍾乳洞から程近いリダの街の

大きい宿や鍛冶ギルドなどを中心に、

鍾乳洞の独特の雰囲気や、

天井を埋め尽くす鍾乳石を活かした逸品が並んでいる。

 

一つ目は、土産物定番とも言えるお菓子、鍾乳洞饅頭である。

 

さながら鍾乳洞のような白くつやのある皮の中に白餡をくるんだものだ。

冷やして食べたならば、気分はひんやりとした鍾乳洞、といったところか。

 

二つ目は、やわらかく加工しやすい石灰岩を使った小物類だ。

 

簡単に切り出しただけの置物から凝った彫刻を施した装飾品まで

様々な形状のものが用意されているが、贈り物の出来としては今の所微妙であり、

買う側のセンスが問われるところだ。

 

しかし、識者の間ではこれらのブームに懸念を示す者も居る。

 

鍾乳洞の石灰岩を切り出して作る土産物が増えるにつれ、

この鍾乳洞の景観が損なわれるのではないか、と言うのだ。

 

帰らずの鍾乳洞は非常に広大だが、

人間の欲と果たしてどちらが勝るか、といった処だろうか。

 

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巻頭付録 鍾乳洞饅頭(2個)引換券

巻末挿絵 果てしなく続く鍾乳洞

応募プレゼント 鍾乳石の燭台

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イブラシル暦 685年04月

週刊 静寂なる海

イブラシル大陸内海であるアムスティア沖は、

碧く澄み渡った海が特徴だ。

 

嵐どころか風すらまばらで、

はるか沖まで波が立っていない事もしばしばだ。

 

中心に浮かぶ島を除けば、岸から水平線まで

果てしなく続く海面は、まるで巨大な鏡のようだ。

 

しかし不思議なことに、

この内海に接する場所に大きな街は存在しない。

 

理由の一つは、波も立たないと言われるこの海に

海流が存在しないという事にある。

 

海のうねりはその内に様々な生命を育むもの。

しかし、南と西に開けた部分こそあるが、

外を流れる大きな海流は入口でほぼ

シャットアウトされてしまうのだ。

 

その為か、この内海で獲れる海産物の種類は、

その広さに反して決して多くは無い。

 

変動する要素が少ない故に、

この地方で飢饉が起こったという記録こそ無いのだが、

多くの人間が生活できるほどの収穫も

望めなかったが故に、街が大きくなる事も無かった。

 

東西の大国から見ても、

実入りが望めず国境問題までをも孕むことになるこの土地に

魅力は乏しく、侵略の対象となる事は殆ど無かったと言える。

 

静寂なる海、平穏なる漁業の街に、吹き荒れた戦争の嵐。

 

人間が巻き起こした不吉なる風が呼んだのか、

中心に浮かぶ島の上空に不気味な黒雲が現れたという。

 

嵐はまだまだ続くのか、それとも更なる災厄の前触れなのか。

 

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巻頭付録 アムスティア湾型手鏡

巻末挿絵 夕焼けを映すアムスティア湾

応募プレゼント  アムスティア産燻製セット

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イブラシル暦 685年05月

週刊 駆け抜ける風

ヴァルグ渓谷は南北を長い長い山脈に挟まれた場所である。

 

海からの風の影響を受けにくい地形の為、

1年を通じて気候が安定しているのが特徴であり、

長い行程もさほど苦にはならないだろう。

 

そんなヴァルグ渓谷だが、年に数日の間のみ起こる自然現象がある。

その名は「駆け抜ける風」、晩秋から冬にかけて発生する風の芸術だ。

 

山脈を覆うのは殆どが常緑樹であるが、

リダ方面へと抜ける東端側には、落葉樹林が生い茂る一帯がある。

 

晩秋の頃この地で散った落ち葉が、

渓谷の西端であるパラス側にまで到達するというのだ。

 

しかも、落ち葉達が費やす旅路の行程は僅か3日ほどと言われる。

 

この落ち葉達の旅路の仕掛け人は、簡単に言えば風、である。

細長い渓谷の西側から東側へ、その上空を

まさに一直線に駆け抜ける風が、落ち葉を運ぶわけだ。

 

完全に解明されたわけではないが、

風が発生する条件は渓谷の両端の気候条件の違いによるものと思われる。

 

イブラシル東岸側の気候と、北岸側バルバシア湾とで、

冬の訪れるタイミングが異なることに由来するのではないか、という事だ。

 

落ち葉が土に還るまでの猶予と、風が発生するタイミングによって

到達する量にこそ違いが有るが、これは毎年の風物詩となっている。

 

遥か上空を逆巻く風が、落ち葉たちを連れて行く。

そんな光景を見るために、渓谷を訪れる旅人も少なくない。

 

自分達の足をはるかに上回る速度で

駆け抜けていく落ち葉達を見送りつつ、

人の足の歩みで渓谷を進んでいく。

 

これもまた、旅の醍醐味と言えるかもしれない。

 

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巻頭付録 組み立て式風車

巻末挿絵 ヴァルグ渓谷一点の紅葉

応募プレゼント  ヴァルグ渓谷「風泉亭」宿泊チケット

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イブラシル暦 685年06月

週刊 命を届けた風

パラスでは、出産を控えた妻に夫が贈るお守りの一つに、

「ミーシャの掌」と呼ばれるモミジの葉がある。

 

独特の葉の形が子供の手形に似ている、というのも理由の一つだが、

そもそもこのパラス近辺には自生しないモミジの葉がお守りとされたのには、

モミジの葉に関するとあるエピソードがあったからだ。

 

モンスターを除けば比較的安全な旅路とはいえ、

ヴァルグ渓谷の往復は最長で6ヶ月を超える。

 

とある晩秋、行商をしていた男がパラスに辿り付いた。

 

初日の商いを好調の内に終わり、宿へと戻ろうとしていた時、

足元に吹かれて舞った落ち葉をふと手にした。

 

故郷の近くに生い茂るモミジの葉を

この時期にパラスで見かけるのはそう珍しい事では無いのだが、

故郷である山中の村に出産を控える妻を残してきた男は、

その時に限って胸騒ぎを感じたらしい。

 

男は急いで品物を安値で売り捌き、

手にした儲けでパラスの魔法使いに頼み込み

故郷の村の近くでまで魔法の力で転送して貰った。

 

そして休むまもなく故郷へと走り、

難産に苦しんでいた妻の元へ辿り付くと、

そこから更に一昼夜を連れ添い励まし続けた。

 

その甲斐あってか、妻は奇跡的に無事に出産を終えたのだという。

 

その男は行商での儲けを1往路分使い切ってしまったわけだが、

次にパラスを訪れた時は、多くの人に祝福され、

商いでも大きな成果を上げた。

 

妻の元に少しでも早く帰るために奔走した事と、

その子供が無事に生まれた事が人々の間に広まっていたのだ。

 

そして、その男に出産の危機を報せたモミジの葉は、

子供の名前を取って「ミーシャの掌」と呼ばれるようになったのだという。

 

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巻頭付録 ヴァルグモミジの絵葉書セット

巻末挿絵 ヴァルグ渓谷を行き来する行商人達

応募プレゼント  メイプル・スリング  ※当選者 四夜刹那様(94)

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イブラシル暦 685年07月

週刊 春雷、秋雷

エルクアール地方は、古い資料にも記されている程に

雷が多く発生する土地として知れ渡っている。

 

しかし、人に向けられれば災いである雷だが、

この地では恵みの雨の呼び水としての側面の方が強い。

 

雪が融け若木が芽吹く季節、東方の海上に降り注ぐ雷は

「エルクアールの春雷」

とも呼ばれ、雷が多く見られる程、逆に雨季の雨量が安定し、

この地方に多くの恵みをもたらすとされた。

 

原始信仰が根付く以前、

地方で様々な神々が祀られていた時代の名残でもある

雷神信仰がこの地に残っている事からも、

この「エルクアールの春雷」がもたらして来たものの大きさが分かる。

 

一方、春に東方で発生する春雷とは逆に、

秋から冬にかけて西方の山脈近くで発生する

「エルクアールの秋雷」

と呼ばれる現象は、人々にとって凶兆であるとされた。

 

この「エルクアールの秋雷」に関わるとされる災害には、

蝗の飛来、長雨による河川の氾濫、伝染病の蔓延、等

史書を辿っても枚挙に暇が無い。

 

だがしかし、これらの災害と秋雷との因果関係は、

実のところ深くは分かっていない。

 

エルクアールとバルバシアに挟まれたこの山脈に

雷雲がかかる事は少なく、実は季節すらまばらなのだ。

 

恐らくは、人々を脅かす数多の災害と、

恵みをもたらす「エルクアールの春雷」と対比した事象とが

たまたま結びついた結果に過ぎないのだろう。

 

一つ興味深い言い伝えとして、

「西方の雷鳴がが聞こえたら見てはならない」と言うものが有る。

 

人々を不幸に陥れる秋雷は、

最初に眼にした者の正気を真っ先に打ち砕いてしまう、というのだ。

 

より多大な被害を及ぼす災害に眼が向きがちでは有るが、

この事象こそが秋雷の脅威なのかもしれない。

 

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巻頭付録 雷除けのお守り

巻末挿絵 岬を覆う積乱雲

応募プレゼント  雷神提灯

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イブラシル暦 685年08月

週刊 樽齧り達の夜

アステリアは学問都市であると同時に、

エルクアール地方の穀倉地帯を背景とする酒造の街でもある。

 

もちろん、酒造の街に相応しく人口に比して酒場が多い事でも知られ、

長い冬場の少ない娯楽として夜な夜な国中の老若男女が

酒場へと繰り出し、エールを酌み交わすのだ。

 

この地方では、そんな彼らのような酒豪を、よく樽齧りと称する。

 

とある酒場、連日連夜明け方まで店を占拠して飲み耽っていた

7人の常連達がいたのだが、その日は古今東西の酒の肴のうち、

どれが一番酒に合うのか議論していた。

 

ある者はアルヴヘイムのサーモンステーキを、

またある者はリーブルフォートのオイルサーディンを、

また他の者も自身が推す自慢の一品を挙げ、

いずれも一歩も引かない議論を続けていたが

 

夜半を大きく回った頃、酒場の主人が

『これこそが最高の一品ですよ』

とくすんだ黄土色の切れ端を差し出した。

 

常連達は早速品定めに噛み付いてみたが、

どうにも固くて歯が立たない。

 

噛めないのなら、としゃぶってみたものの、

大した味が染み込んでもいない。

 

主人はカウンターでニヤニヤしながらその様子を見ていたが、

おもむろに足元から大きな樽を持ち上げた。

 

『どうです? 10年酒樽として使ってきた年代物から削り出した一品は』

 

その小皿は、常連達が長々と居座る事に腹を据えかねた主人が

腹いせと皮肉をこめて、古い樽を切り出して作った只の木片だった

 

ほとんどの常連達が酔いが醒め、バツが悪そうに顔を見合わせたのだが、

ひときわ泥酔していた常連の一人が木片を噛み締めこう言った。

 

『なるほど、流石は主人。酒樽まで味わってこそ、ウワバミとして一人前と云う事か。恐れ入った。』

 

その男が本気でそう思ったのかどうか、

或いはこの逸話の真偽は、藪の中ならぬエールの中といったところか。

 

兎も角それ以来、意味の好悪が入り混じった俗称として、

樽齧りという呼び名が広まっていったとの事だ。

 

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巻頭付録 アステリア名物酒場MAP

巻末挿絵 静かな朝の酒場

応募プレゼント  酔っ払い名言入りジョッキ

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イブラシル暦 685年09月

週刊 最後の一葉

ティターニアのハーミアティーは

イブラシル有数の良質な茶葉を使用する事で知られる。

 

そして、それに勝るとも劣らない程に重要視されるのが、

ティーカップである。

 

紅茶文化の発展と定着に伴い、

より良いティータイムを満喫するための様々なアイテムが生み出される中、

非高級品ながら歴代の女王達が愛用しているのが、

100年前の名工ムンツ=トゥルクの手による作品である。

 

ムンツの作品に見られる特徴は、

ティーカップ或いは受け皿に描かれた1枚の紅茶の葉だ。

 

シンプルな白磁の上に繊細かつ控え目に描かれた紅茶の葉は、

ティータイムにささやかな彩りを加えてくれる。

 

芸術品ではなく日常で使う生活用品でありながら、

紅茶が注がれたその佇まいは完成された雰囲気を湛えており、

紅茶を飲み干した後に紅茶の葉が再び目に入る事から、

通称「最後の一葉」として親しまれている。

 

淹れる紅茶に合わせたカップのセレクト、

更にはカップに合わせたブランケットが開発されるなど、

「最後の一葉」はティターニア国内に広く浸透し、需要も高まっていった。

 

そういった声に応える為、

ムンツは積極的に弟子を取って惜しみなくその技術を伝えていた。

 

その甲斐もあり、ムンツの死後1世紀を経た今でも

「最後の一葉」は弟子達を含めた多くの職人の手で作られ続けている。

 

そんなムンツの最後の作品、言わば元祖と呼べる中での

まさに「最後の一葉」は、彼の死後妻の手でその棺に収められたが、

彼を慕う弟子たちもその際、師より学んだ成果を見せようと、

自信の作品も一緒に棺に納めたという。

 

孫弟子たちの作品までが高騰する現在、

ムンツの棺に納められたそれらの「最後の一葉」は価値百万は下らないと言われ、

盗掘を危惧したティターニア女王の命により、

その棺を王室格待遇としてカタコンベへと移した、という事だ。

 

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巻頭付録 「最後の一葉」柄スエードコースター

巻末挿絵 女王のティーテーブル

応募プレゼント  ロル=トゥルク作「最後の一葉」

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イブラシル暦 685年10月

週刊 シュヴァルツのリボン

ティターニアでは色取り取りのリボンが取り扱われているが、

唯一、単色濃紺のリボンに限ってはタブーとされている。

 

その理由には諸説あるが、ここではティターニアの子供たちが

寝物語で聞かされる、シュヴァルツのリボンの逸話を紹介したい。

 

アストローナ大陸からの侵略に対抗するために建造された

バーリー要塞の完成は、国内の守りをより鉄壁なるものとした。

 

だがそれは同時に、兵士たちの長期に渡るバーリー要塞への駐屯をも招いた。

 

平凡な若者だったシュヴァルツはバーリー要塞へ配属を志願兵したが、

その恋人は彼の身を案じ、お守り代わりに瞳と同じ色の濃紺のリボンを用意し、

街へ戻る度に一本ずつそのリボンを渡して彼を見送った。

 

その後、上陸し侵略拠点を築こうとするディアス軍との小競り合いが

3度に渡り発生するが、お守りの甲斐あってか

シュヴァルツはその3度の戦いを生き延び、兵長の一人へと昇格した。

 

だがそれから更に数年後、

ディアスの大軍がウィート監視塔に肉薄しているとの報告を受け、

バーリー要塞の駐屯軍はディアス軍を迎撃するため東へと軍を進めた。

 

しかし、電光石火の進撃で

既に陣を構えて待ち受けていたディアス軍の猛攻に遭い軍は半壊してしまう。

 

シュヴァルツは負傷兵達を連れ森を抜けようとしたが、ディアス軍に殺到され殺されてしまった。

 

シュヴァルツの奮戦により辛うじて生き延びた兵は、

彼はクルーエ=ヴェルガ将軍と間違われたのだ、と語っている。

 

クルーエ将軍は黒髪をなびかせ前線で果敢に戦う勇猛な将軍で、

当時バーリー要塞の指揮官だった。

薄闇の中、シュヴァルツが兜に結わえていた無数の濃紺のリボンが

クルーエ将軍の黒髪と見間違われたのではないか、と言うのだ。

 

その後、シュヴァルツの戦死を知った恋人が

次に渡す予定だった濃紺のリボンでその命を絶ち、

濃紺のリボンは不吉の象徴となったわけだが、

ティターニアの戦史に一兵長であった シュヴァルツの記述は当然無く、

この話の真偽は不明と言う事だ。

 

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巻頭付録 メビウスリボン(色は12色からランダム)

巻末挿絵 聳え立つバーリー要塞

応募プレゼント  高級リボン補修セット

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イブラシル暦 685年11月

週刊 天国と地獄

メフティス火山はイブラシル大陸唯一の火山であり、

かつ有史以来ずっと活動状態にある活火山である。

 

良質な鉱石を算出するこの地には

古い時代から大陸各地の鍛冶師たちが集っていたと言われ、

古代の王や英雄たちが携え、現在も各地で保管されている

武具の類の多くはこの地で作られたとされている。

 

そしてもうひとつ、この地方を代表する名物が温泉である。

 

この地では、鍛冶師たちが構える炉が発する煙があちこちで見られるが、

その煙の本数に匹敵する程に、温泉の発する湯煙が各地に立ち込めている。

 

イブラシル大陸の中でも西方の奥まった地に有り、

観光の立地条件は決して良くはないが、

それでもこの地を目指しやってくる湯治客は後を立たないのだ。

 

そんな彼らを惹きつけてやまない、温泉にまつわる2大名物が、『天国と地獄』だ。

 

『天国』と呼ばれる温泉は、メフティス火山中腹に作られた簡素な露天風呂だ。

 

温泉の広さこそ、王宮の大浴場はおろか

大衆浴場にすら及ばないちっぽけなものなのだが、

湯煙の切れ目からは火山の麓に点在する村々、

更にはその先のイブリス大平原や大海原までもが垣間見え、

その視界はまさに絶景の一言に尽きる。

 

『地獄』とは温泉そのものではなく、

この地独特の調理法で作られる料理、温泉卵と呼ばれる食べ物だ。

 

卵を茹でて食べる料理法はもちろんイブラシルでも一般的であるが、

ここの源泉でゆっくりと茹でられた卵は、なんと殻が真っ黒に変色してしまうのだ。

 

まるで呪いにでもかけられたかのようなその変貌は、

地獄と呼ぶに相応しいものだ。

 

だがその殻を割った中身は、

普通の料理法では出せない味わいと食感であり、まさに絶品と言える。

 

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巻頭付録 天国温泉絶景絵葉書

巻末挿絵 村の入口に立てかけられた二本の槍

応募プレゼント  地獄温泉卵(4個)

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イブラシル暦 685年12月

週刊 五弦が爪弾く

バルバシアにはかつて、詩人や画家のような芸術家が多く集う、

洗練された文化を持った時代があった。

 

新たな資源の開発や、

細やかな工芸品から建築に至るまでの幅広い技術の向上が発展を呼び、

豊かさを求め集まった人間達の手で更なる発展がもたらされる。

 

まさに輝ける時代だ。

 

そして、人々の生活に潤いとゆとりを生み出した技術は、

次に芸術の充実と発展を生み出した。

 

ミファル=リデ=ルドは、そんな時代を代表する

吟遊詩人にして楽器職人だ。

 

五本の弦を持つ竪琴を生み出した人物とされ、

また、誰よりも巧みにその竪琴を演奏したという。

 

小振りで持ち運びし易く調律も容易でありながら、

その音質と音域の豊かさには眼を見張るものがあり、

多くの楽器職人達がその技術を学ぼうと、演奏する彼女の元へ通ったという。

 

一方、楽器だけではなくその演奏技術も人々を魅了した。

 

感情豊かなその歌声と、それを導き、支え、掻き立てる竪琴の音色は

単純に技術と一括りにはできない代物で、簡単には真似できないものだった。

 

彼女は自身の演奏技術に関してあまり多くを語っていないが、よくこんな事を口にしていた。

 

『竪琴を弾くとき、もっとも体に近い第五弦。この弦の震えが心臓に伝わり、揺らせる。』

 

『そんな時ほど、自身の声が驚くほどに伸び、心が乗るのだ。』

 

心を込めるというのは、芸術における最も基本的な心得ではあるが、

それを作品に活かす事の難しさは、専門家ならずとも周知の事であろう。

何故ならば、その心こそは万変多彩な芸術であるのだから。

 

彼女も先の言葉以上には、自身の演奏技術を伝える術を持たなかったのかもしれない。

 

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巻頭付録 8枚組み音符シール

巻末挿絵 演奏に聞き入る人たち

応募プレゼント  竪琴型写真立て

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イブラシル暦 686年01月

週刊 白眼の碑林

鍛冶師たちの聖地と言えばメフティス火山であるが、

かつてはもう一箇所重要な場所があった。

 

その場所とは、絶海の孤島にある白眼の塔である。

 

メフティス火山一帯がイブラシル有数の鉱脈源である事には変わりないが、

それでもあの広い火山帯から鉱脈を見つけられるかどうかは、

かすかな兆候を捉えられるだけの調査能力に加え、怪物から身を守る戦闘能力、

加えて、鉱脈を掘り当てる強運と幸運が必要であった。

 

白眼の塔を含めた各地の五色の塔は

建築された時代すら判明していない遺跡では有るが、

メフティスに定住する人間が出てきた頃には少なくとも建造されていたようだ。

 

探鉱者たちにとってはまさに神頼みであった鉱脈探しだが、

この地を訪れ発掘を祈願した者は

鉱脈を次々と掘り当てていったと伝えられている。

 

他の箇所に劣らぬ難所でありながら、

藁にもすがる思いを抱く者達によって

最も多くの人間が訪れた塔かもしれない。

 

そんな彼らにとって、白眼の塔へと渡るのに渡航手段は必須であったが、

パラス以西では唯一の港であったその場所は、今は廃港と呼ばれている。

 

バルバシアがこの地を押さえて以来、

白眼の塔行きを含めた全ての渡航を制限したからだ。

 

鉱脈を発掘する為の御利益を独占する為だ、との噂も有るが、

肝心のメフティスを抑えた訳では無いので、恐らく真実は異なる理由であろう。

 

その廃港には、探鉱祈願の歴史を物語る史跡が有る。

 

形も大きさも材質もバラバラであるが、

それは白眼の塔を象った碑が立ち並ぶ場所だ。

 

これらの碑は、念願適い鉱脈を掘り当てた者達が感謝を込めて立てたもので、

発掘した鉱石を使い作っているのが特徴だ。

 

腕に覚えの有る鍛冶師はその形状で自身の技術を、

鉱脈を保有する豪商はその大きさで商いの規模を誇示するのだと言う。

 

物言わぬ冷たい鉱石であるが、そこに刻まれた想いの熱さを感じずにはいられない場所である。

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巻頭付録 紋章入りマグネット

巻末挿絵 夕焼けに浮かぶ碑林

応募プレゼント  ツルハシモチーフのペンダント

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イブラシル暦 686年02月

週刊 白眼の風説

時を重ねる事で磨かれ炙り出される真実もあるが、

逆に捻じ曲がり塗り固められる風説が有る。

 

白眼の塔周辺で時折見られる白光に関する風説も、その一つだと言えよう。

 

前回紹介した話で、一つ不思議に思った方も多いのでは無いだろうか。

 

白眼の碑は塔に対する祈願が成就した事で、塔に対し捧げられたものだが、

それが何故、白眼の塔の立つ島では無く対岸の廃港に建てられているのか、と。

 

実は、古い時代には碑が塔の元へと運ばれた事も有った。

 

しかしある時期に、海を渡って碑を運ぶ事は無くなった。

 

それは、『碑を運ぶ船は塔の怒りに触れ白光に撃たれる』という噂が出たからだ。

 

元々白眼の塔周辺には、謎の白光が突然降り注ぎ

生物を死に至らしめる現象が発生していたが、島内ならばともかく、

海上で発生する事は極めて稀であった。

 

しかしある時、

鉱脈を掘り当て成功者となった者が碑を船に乗せて運ぶ途中、

確率と言う名の運命を無視して船へと白光が降り注ぎ、

乗組員達を含めた数名が命を落とした。

 

この現象自体には殆ど規則性が見られない為、

本当に不運としか言いようがないのだが

その稀さ故か、生き延びた者たちはその現象に意味を求め、やがて

 

『碑を運ぶ船は塔の怒りに触れ白光に撃たれる』

 

という風説が生まれるに至った。

 

目撃者たちから伝わったこの風説は瞬く間に広まり、

やがて海の向こうへ碑を運ぶ船は無くなった。

 

謎の多い現象であるため、この風説は現在になっても人々の間で信じられている。

 

しかしもう一点、この風説が広まった要因は、

白光を浴びたのが持つ者だった事にもあるだろう。

 

著名な人間の成功と死が伝播し易いし、

更には祈願成就した持つ者が抱いた失う事への恐怖が、

持たざる者のそれに比べて大きかった筈はずだからだ。

 

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巻頭付録 プラチナヘアピン

巻末挿絵 朝露に濡れる碑

応募プレゼント  白眼の塔型帽子掛け

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イブラシル暦 686年03月

週刊 緊急警報!

《ティターニアでばら撒かれた風刺ビラの内容であり、記事の信憑性は限りなく低い事をお断りしておく》

 

バルバシア暦663年7月12日

 

現皇帝は大幅な軍備増強を邁進してきたが、

居城内への大軍の配備は政務を妨げる、との

宮廷魔術師の進言が通り、新たに開発された

侵入者迎撃用の自律機械兵がお披露目された。

 

その特徴は、

より効率的な巡回による城内の不審者の発見と、

城内の警備兵誘導能力にあった。

 

 

バルバシア暦663年7月15日

 

先日お披露目を終えた新型機械兵10体が、早速配備される。

 

一先ずは城壁と中庭の巡回の一部へ編入されたが、早速トラブルが発生。

 

正規の巡回だった機械兵との遭遇時に侵入者と誤認、味方を呼び寄せる

アラームトラップをそこらじゅうに撒き散らし始めたのだ。

 

待機していた開発班が急遽トラップの解除を開始するも、

解除処理に手間取る間に不幸にも他の新型機械兵の巡回区域に

正規兵が引っかかってしまい、たちまち罠が連鎖。

 

結局居城内は朝までアラームが響き渡ったという。

 

 

バルバシア暦663年7月16日

 

寝不足で不機嫌だった皇帝の決断は早く、

提案者の宮廷魔術師は一閃の元に解任された。

 

 

バルバシア暦663年7月22日

 

新型機械兵の処遇を考えあぐねた皇帝らの元に、

旅の魔道士が献上品を持参しやって来た。

 

彼が皇帝へと差し出したオリハルコン製の耳栓は、

皇帝を大いに満足させた。

 

以後、新型機械兵のトラップの精度向上は先送りとなり、

一方の皇帝は高価な耳栓を消耗し続けた。

 

バルバシアが耳栓の産地であるティターニアへの侵攻を開始したのは、

その翌月の事である。

 

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巻頭付録 眠気爽快パッド

巻末挿絵 朝の日差しを受けるバルバシアの街並

応募プレゼント 守護将デザイン目覚まし時計

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イブラシル暦 686年04月

週刊 ピクシーフロア

プルトスはアルヴヘイムにとって重要な貿易拠点だ。

 

アルブヘイムの北岸は切り立った崖と広大な森林が広がり、

西岸は遠浅のアウストリ海岸が続く。

 

東岸はというと、伝承の地グニタ荒野や

不気味な亡霊が支配する亡者の沼地が立ち塞がる難所が並んでいる。

 

唯一、崖の高さが下がった位置にあるプルトスは、

文字どおりアルヴヘイムの玄関口なのだ。

 

 

しかしながら、元々が森の民である彼らが住まうこの街には、

港町でありながらも他の港町に見られがちな

荒々しい#海の男たち、という雰囲気が無いのも大きな特徴だ。

 

メティウス大森林の守護者たる光の妖精の加護を受けたアルヴヘイムは

モンスター達こそ徘徊しているものの、その被害は最小限に抑えられており

安全という恩恵を享受する彼らの暮らしは慎ましやかそのものだ。

 

 

そんな彼らの気風を物語る風習の一つが、ピクシーフロアだ。

 

大規模な開墾や放牧に極力頼らない彼らの主な食料は、

採集や狩猟による森の恵みが主になる。

 

そんな彼らが、採集に当って注意を払っているルールが、

 

『手を伸ばした高さ=“ピクシーフロア”より上に生った果実・木の実・茸等は採らない』

 

というものなのだ。

 

この風習は、森からの恩恵を授けてくれる

光の妖精達への感謝を込め、彼らの取り分を残しておく、という意味を持つらしい。

 

とりわけ穏やかで謙虚なアルヴヘイムの人々らしい風習と言えよう。

 

パラスとの国交が拓けた後も、森の恵みを中心とする彼らの暮らしは大きく変わっていない。

ささやかではあるが、もしかするとこういった場所を楽園と呼ぶのかもしれない。

 

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巻頭付録 妖精デザインキーホルダー

巻末挿絵 プルトスの港

応募プレゼント  アルヴヘイム森の恵み詰め合わせ

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イブラシル暦 686年05月

週刊 古の狩人達

アルヴヘイムにおいて異端視される者達、

それがエンシェントハンターである。

 

この地においては、

採集・狩猟にあたり一定の範囲において

光の妖精達との領域を分け合うことでその加護を得ているのだが、

 

加護の及ばぬ危険な地にて、より大きな獲物を狩り暮らしているのが彼らだ。

 

彼らは彼らなりに森に住まう者への敬意を持ってはおり、

その庇護下で暮らす人々を尊重しつつも

互いに軋轢を生まないよう、多くは森深くに暮らしている。

 

当然ながら、生きていく上では弓矢の技術以外にも

森林における生存術や機知・体力・忍耐が必要であり、

そんな暮らしは彼らを孤高かつ頑迷にして逞しい狩人へと育てていくのだ。

 

 

フォレストハウンドは、そんな彼らの数少ない友人にして大事な相棒だ。

 

危険な怪物たちとも渡り合わなくてはならない彼らの狩りにおいて、

フォレストハウンドの卓越した感覚と敏捷性、

そして怪物にはない連携は大きな武器となる。

 

警戒心が強く知能の高いフォレストハウンドを見出し、認められる事が、

森深くを生き抜く真のエンシェントハンターたる最低条件なのだ。

 

その域に達することが出来ない狩人は

幸運によってその日を生き延びる事はできるが、

些細な不運に足元を掬われ命を落としていく。

 

旅人達がそういったハンターに出会うことはまず無いだろう。

 

また、光の妖精の守護下にない彼らは決して森の守護者ではない。

 

各々が心に過酷な生存競争のルールを敷く者達であり、

出くわした旅人達を心得の無い迷い人と見るか、

それとも珍しい獲物と見るかは、誰にも分からないのだ。

 

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巻頭付録 フォレストハウンド手乗りぬいぐるみ

巻末挿絵 旅人と森の小道

応募プレゼント  フォレストハウンド抱き枕

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イブラシル暦 686年06月

週刊 無名の墓標

森に生き森に死すエンシェントハンター。

 

家族や過去、名前すら棄てて、

その後の人生を森と同化して生きる彼らだが、

数少ない例外と言える記録が残っている。

 

それは、エンシェントハンターの墓標である。

 

とある小さい村。幼い頃に父親を亡くした姉弟は、

病床の母親の代わりに森で木の実や茸、

果実等を採ってくる暮らしをしていた。

 

だがある日、姉弟は森の中で、

肩車して高い位置にある木の実を採ってしまった。

 

ピクシーフロアを越えてしまったのである。

 

その日の夜、村では姉弟が森から戻らず騒然となった。

村人達は総出で、姉弟がいつも採集していた森の一角へ捜索へ出たのだが、

その前方から狼の遠吠えが聞こえてきた。

 

フォレストハウンドの啼き方だと村人の一人が気づき、

彼らは警戒しつつ先を急いだ。

 

 

やがて村人達は、前方から漂ってくる血の匂いに気がつき、

最悪の事態を覚悟して近づいた。

 

しかし、たいまつの灯りに照らし出されたのは、

予想とは異なる光景であった。

 

そこには数体のモンスターの死体と、

気絶した姉弟、傷だらけで息絶えている男、

そして、男の傍に佇むフォレストハウンドがいた。

 

フォレストハウンドは村人達の姿を捉えるや否や、

倒れている男の顔面をかじり取り走り去っていった。

 

村人達はその凄惨な行動に思わず動きを止めたが、

姉弟が眼を覚ますのに気づいて急いで駆け寄った。

 

死んでいる男は恐らくエンシェントハンターと思われたが、

二人は逃げ回るうちに恐怖と疲労で気絶していたらしく、

一体ここで何が起こったのか分かる者は居なかった。

 

それから6年後。

 

姉弟が発見され、エンシェントハンターが弔われた場所に

2つ目の無名の墓標が並んだ。

 

闘病の末に死の淵にいた母親の最後の望みが、

その場所に自分を葬むる事だったのだ。

 

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巻頭付録 方位磁石

巻末挿絵 無名の墓標

応募プレゼント  双子団栗一籠

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イブラシル暦 686年07月

週刊 シーサイドハウス

もしもアウストリ海岸を縦断する事になったなら、

できれば夏の間に行く事をお勧めする。

 

海岸線から遠く水平線まで続く大海原は、

イブラシルの大陸上最も世界の広大さを体感できるだろう。

 

更に、紺碧の空とそれを深く映す海面のコントラストは、

とりわけ夏には鮮やかな色彩を湛えるからだ。

 

 

元々アルヴヘイム南部には石化の視線を放つモンスターが多いが、

彼らは水面による反射を恐れるため、

この海岸線に近い街道では出会うことは無いだろう。

 

 

しかし、夏のアウストリ海岸の魅力は、それら自然の賜物だけではない。

 

長い海岸線の砂浜の中にポツリと立っているシーサイドハウス、

通称海の家にも是非お寄り頂きたい。

 

形態としては宿屋なのだが、一階部分がいわゆる酒場ではなく

開放的な出店のようになっているのが特徴だ。

(その為に、料理や酒は全て代金を先に払う仕組みになっている)

 

日陰を多く作りつつも風通しの良い構造に、

涼やかな配色、小さくて高い金属音を奏でる鈴など

 

涼をとるための工夫が凝らされたこの場所には、

小奇麗な宿の高級さや、山中の朴訥とした宿とはまた違った情緒がある。

 

新鮮な海の幸や大陸各地の夏の旬、

貴重な技術によって作られた氷のデザートなど、

少々相場より値は張るものの、シンプルだが独特の品揃えは

この場所独特の雰囲気と相まって、旅人の記憶に深く刻まれるであろう。

 

 

ただし一点注意頂きたいのは、シーサイドハウスの営業期間だ。

 

この場所は夏にしか営業しておらず、夏の終わりと共に店主達はいずこかへ引き上げ

後には人気の無い小屋が残るのみ、もぬけの空となってしまうのだ。

 

はるばるここを目指してやってきて、店が閉まっていた、

という逸話もまた、風物詩の一つになっている。

 

この店の関係者達が夏以外はどこへ行くのか、

夏だけにしか営業しない理由があるのか、

そういった事は良く分かってはいない。

 

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巻頭付録 団扇型手鏡

巻末挿絵 砂浜と夕焼け

応募プレゼント  ギアマン風鈴

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イブラシル暦 686年08月

週刊 アダマントの王

アダマントは、イブラシルで流通する金属の中でも最も希少とされるものの一つだ。

 

硬度と軽さはミスリルを上回り、それらを活かした加工品は

冒険者達にとって垂涎の的だ。

 

だが、別名未知なる合金と呼ばれるだけあり、

この金属の鉱脈は未だ見つかっていない。

 

現存するアダマントを冠するアイテム類は、

古代文明の技術によって鍛えられた物が発見されたに過ぎない。

 

 

唯一加工前の状態で入手できる可能性が有るとすれば、

メフティス火山に出没するアダマントゴーレムからの採取だろう。

 

だが、破壊し尽くされるまで戦いを止めないゴーレムを相手にした戦闘では、

部品の入手は困難と言える。

 

また、現時点での魔法科学では金属としての特性が特定できないため、

加工も実質は不可能だ。

 

これまでの技術体系には存在しない方法で多種の金属を融合している

という仮説も有り、魔法・機械技術両面の発展による分析が待たれるところだ。

 

 

さて、このアダマントの希少性を利用した山師の類は非常に多い。

 

中でも有名なのは、「アダマントの王」を自称したフィリップ=ランバート卿だろう。

 

彼はアダマントが武具や魔法の宝物としてしか人目に触れてこなかった事を逆用し、

金属としての特性を実証する必要性が薄い「チェスの駒」に利用する事を思いついた。

 

駒に多種の金属を利用したその名も「メタルチェス」を開発し、

キングの一つにアダマントを使用した事を謳い高値で売り捌き

巨万の富を得たのだ。

 

 

しかしある日、

酔っ払った貴族がこのチェスを使って遊んでいた時の事なのだが、

敗者側の貴族がふざけて勝者側のキングの駒に

赤銅で出来たポーンの駒を叩き付けたのだ。

 

爆笑しながら二つの駒を拾い上げた貴族達は仰天した。

なんと両方の駒が欠けてしまっていたのだ。

 

こうして、甚だ無礼な偶然により、フィリップ卿の不正は明らかになった。

そして現在、メタルチェスの二つの王には、

両方ともミスリルが使われる事となったのである。

 

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巻頭付録 アダマントキング(カッパー製)

巻末挿絵 インテリア用ゴールドクイーン

応募プレゼント  ミスリルキングとゴールドクイーン

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イブラシル暦 686年09月

週刊 大平原の疾風

何の遮蔽物も無く、

ただただ広大な大地が広がるイブリス大平原。

 

イブラシルに点在する秘境のような過酷さこそ無いが、

この地には未だ近代国家と呼べるものは根付いていない。

 

作物など期待できないこの地域の主は、

長らくモンスターと遊牧民達が二分しているのだ。

 

モンスターから身を守る為の

砦や堀などへ活用できる地形に乏しいこの土地では、

もっぱら機動力こそが最大の防具であり武器となる。

 

敵が少数ならば一斉に長距離を移動して包囲・連携して殲滅し、

敵が多数ならば接近前に即座に荷物をまとめ、安全な場所まで移動する。

 

頻繁に移動を繰り返さざるを得ない彼らは、

その素早い判断力としたたかさを得る代わりに、

腰を据えて高度な技術を開発する事に

力を割く事が出来なかったのだと分析されている。

 

そんな遊牧民達が最も腐心したのは、機動力の要となる馬たちの育成だ。

 

自然の淘汰という過程を得て鍛え上げられたその脚は、

この平原においては無類の迅さと頑健さを誇り、

大平原を分割支配する各氏族は、自分達が代々育て上げた

馬の蹄をモチーフにした旗を掲げている程だ。

 

過去幾度となく他国からの侵略も受けてきたが、

普段は緊張関係にある各氏族がその都度共闘関係を結び、

 

その機動力によって広大な戦線を縦横無尽に駆け抜けて

侵入者の軍を尽く打ち破っている。

 

しかし今、この地において彼らを脅かす存在が噂され始めている。

 

蹄ではなく拳で野を駆ける異形のモンスターを乗りこなし、

たったの一騎で徘徊するその威容は圧倒的であり

連携による強を自負する遊牧民からは、

敬意と畏怖を込めハナゲソルジャーと呼ばれている。

 

ダンジョンに潜むボスとは違い、

地上を徘徊するこの敵には、注意を要するだろう。

 

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巻頭付録 若草色の手袋

巻末挿絵 

応募プレゼント  高級ハナゲ抜き

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イブラシル暦 686年10月

週刊 虚空に眠る宝物

ノアトゥーンの街から少し離れた岸壁にある遺跡は、

イブラシルにおいてもとりわけ異質な存在である。

 

現代まで繋がる国家の古史や、さらに古い古代文明など

大陸の歴史学は日進月歩で進んでいるが

通称閉ざされた階段と呼ばれる遺跡については

まだほとんど解明が進んでいないのだ。

 

この先の通路に徘徊するのが

大陸中屈指の強力なモンスターだという理由も有るが、

それ以上に学者達の研究を阻んでいるのが

遺跡独特の痕跡の極端な薄さだ。

 

石壁や床の風化はかなり進んでおり、

経過した時間が大陸中の古代文明に匹敵する事は判明している。

 

しかし、それらが建造されるだけの技術と文明が有ったにも関わらず、

当時の歴史を語る壁画や器物は無い。

 

何者かが居た痕跡は有るが、

その痕跡を残した存在を示すものが皆無なのだ。

 

 

この地以外からのアプローチとして、他の古代文明の中で語られる

この地域に関する情報を集める試みも為されたが

比較的時代が近いとされる古代文明の資料においても、

当時この地域にそれだけの文明社会が有ったという記録は無い。

 

だが、当時の技術レベルと統治・交易範囲を考えれば、

接触が無かったとは考え難いという。

 

過去からも現在からも触れえぬ地、

この閉ざされた階段から先は、まさにスヴァルト、漆黒の闇に覆われている。

 

まだ見ぬ過去にロマンを求め多くの人物がこの地を訪れているが、

危険に見合うだけの富を得た、という話は未だ聞こえていない。

 

もっとも、徘徊するモンスターとの戦いを求めこの地を訪れる冒険者は数多い。

 

そしてここから生還した者達だけは、

危険に見合うだけの実力という宝を育み、大陸へと戻っていくのだ。

 

もしいつか、このスヴァルトから何かが見つかるのだとするならば、

それは彼らのような冒険者にしか見つからないものなのかもしれない。

 

 

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巻頭付録 黒革のキーホルダー

巻末挿絵 

応募プレゼント  黒金細工の鍵型万年筆

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イブラシル暦 686年11月

週刊 欠けた岩は戻らず

妖精たちとの盟約により守られた森の周辺を治めるにすぎない

アルヴヘイムには、他国のような軍備は薄く、

危険な魔境を開拓するだけの国力は持てないのが現状だ。

 

アウストリ海岸を挟んだ南端、最果ての町ノアトゥーンも

実質的に独立した街である。

 

鉱業と林業が盛んな点はアルヴヘイムと同じだが、

鍛治技術においては恐らく大陸一だろう。

 

メフティスの豊富な鉱脈とバルバシアの先端技術を要する

パラスが量産体制を特徴とするなら、

ノアトゥーンの鍛治技術は質の高さが特徴だ。

 

その性能は市場価格に見合うだけのものが有る。

 

その鍛治技術と密接な関係に有るのが、

アルヴヘイム中央部を占める山岳地帯に

元々住んでいた、ドヴェルクと呼ばれる種族だ。

 

古代文明の発祥はこの地である、と信じる研究者が居る程に

彼らの鍛治技術は発達していた。

 

ドヴェルクとの交流があったノアトゥーンの民が

彼らの技術を学んだという説が一般的だが、

ノアトゥーンの民は彼らの末裔なのだ、という説を主張する研究者もいる。

 

しかし残念ながら、現国家群が形成される頃には、

既にドヴェルク達は姿を消している。

 

優れた技術で地下帝国を築き移住したのか、

過酷な環境により滅亡したのか、詳細は分かっていない。

 

 

ドヴェルクについて残っている言葉に「欠けた岩は戻らず」というものがある。

 

彼らは不老不死でこそ無かったが、

あらゆる病苦を跳ね除ける体質であった。

 

暗き鉱山でも光が不要で、鉱山の毒物にも平然とし、

苛酷な環境に生きる故に体調を崩さず、

鍛治に没頭する余り眠りも知らない。

 

ただ唯一、傷の癒え方が極端に遅かったらしく

怪我や骨折といった肉体の損傷だけは酷く恐れていたと言うことだ。

 

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巻頭付録 各国紋章入りバンドエイド

巻末挿絵 

応募プレゼント  迷著・イブラシル暗黒史

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イブラシル暦 686年12月

週刊 真紅の宝石箱

ノアトゥーン名物といえば、厚切りにしたサーモンのステーキだ。

 

ノアトゥーンを拠点とする過酷な南洋で収獲されるサーモンは

季節を問わないという強みを持つと共に、

他の場所でも見られるような川で収獲され

乾燥・塩漬けされた物とは異なり、非常に脂が乗っている。

 

それらを新鮮なうちに大振りに切り分けて焼いて食べる、贅沢な食べ物だ。

 

イブラシルにおける食文化においては贅沢食の代表とも言われているが、

 

保存食特有の強い塩気とは無縁の肉厚さ、

濃厚なバターと香草の香り漂うその風格は、

贅沢と言う言葉そのものを体現していると言えるだろう。

 

ノアトゥーンに限っては季節を問わず収獲できるという強みも有り、

サーモンステーキを目当てにこの地を訪れる旅人も多い。

 

 

しかし近年、このサーモンステーキを脅かす存在が世に現れたという。

 

鮭の刺身と卵とをふっくら炊き上げた米に乗せた一見シンプルな料理なのだが、

冷と暖、塩味と甘み、三様に異なる食感のコラボレーションはまさに衝撃と言える。

 

何せ鮭の刺身は生食に適さず、

卵も食用に適した状態での入手と加工が困難な代物であり、

収獲地が限られる米の入手とも相まって、

通称真紅の宝石箱と呼ばれている。

 

鮭と卵の加工法・調理法の一切が一部の漁村内で秘匿されている事もあり

真紅の宝石箱を求める貴族達による材料の争奪戦は熾烈を極めている。

 

遠方に住む貴族の中には、

テレポートを使える魔術師を囲い入れる者まで居ると言う事だ。

 

近々、エルクアールの老舗グルメ誌・星の道標に掲載が予定されている、

とも噂されており、今後は本格的にその名を知らしめていく事になるだろう。

 

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巻頭付録 ミニ木彫り熊

巻末挿絵 

応募プレゼント  真紅の宝石箱

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イブラシル暦 687年01月

週刊 霧の峡谷

イブラシル大陸ではノアトゥーンが最南端の町とされる。

 

しかし、アルヴヘイム最奥の領域には、まさに人の触れえぬ地、

真の意味での最果てと言える場所が揃っている。

 

他の場所では桁外れに危険な場所である五色の塔も、

この地においては更なる魔境へと至る入口の一つに過ぎない。

 

 

ルベツアール峡谷も、そういった入口の一つだ。

 

石化攻撃を有するモンスターが多く徘徊する危険地帯ではあるが、

その奥に潜むモンスターを知る者から見れば、さしたる障害とは言えないだろう。

 

左右を切り立った断崖に挟まれ、霧と静寂が支配するこの地は、

冒険者にとって嵐の前の静けさを感じさせる場所だ。

 

 

地形的にはヴァルグ渓谷と良く似ているが、

山間部から平野へと風が吹き抜けていくヴァルグに比べ、

ルベツアールの方は殆ど無風状態であり、

一年を通じて出ている霧が世界を塞いでいるかのような印象を受ける。

 

点在する洞穴にいるドヴェルグの仕業という噂も有るが、

魔境と隣接している事や、収獲など見込めない過酷な地である事も有り

人間が暮らしていけるような場所とはとても言えないだろう。

 

 

旅人達の間で噂された霧の中の人影の逸話も、

この地に伝わる脅威の一つだ。

 

実物を目撃した者は居ないが、旅人達を追い立てるかのように

彼らの彼方に、背後にと、霧の中に時折姿を現すのだという。

 

そして、霧の人影を追っていった者は、二度と戻らないのだ。

 

彼らは果たして死を告げる影なのか、

或いはそれを回避せしめんとする警告者なのか。

どちらにしても、確認する方法は無いだろう。

 

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巻頭付録 鍾乳洞飴(3個)

巻末挿絵 

応募プレゼント  全天候用蛍光ポンチョ

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イブラシル暦 687年02月

週刊 雷神の紋章

エルクアールから聖者の丘方面に至る一帯は、

イブラシル有数の穀倉地帯である。

 

しかしこの場所では、他の穀倉地帯なら

何処にでも見られるある物が殆ど見当たらない。

 

それは何かというと、案山子である。

 

勿論、穀物をついばむ鳥たちが少ないと言うわけでは決して無く、

この地特有の事情故に、案山子が少ないのだ。

 

 

イブラシル各地で取られていた害獣対策は様々で有ったが、

案山子と言う手段は古今東西で使われている。

 

しかしエルクアール近辺においては、雷の発生数の多さが災いした。

 

平坦な麦畑の中に目立つように屹立する案山子は、

時折雷の直撃を受け破壊されてきたのだ。

 

収穫期の雷の数から見れば僅かな確率であっても、

3年立ち続ける事は困難とまで言われた。

 

だが、学術に長けた街でもあるエルクアールでは、

過去に雷に強い案山子が生まれた事がある。

 

一度目の直撃を受けて原型を留めた姿を見た農夫や学者達達は、喝采はをあげた。

 

 

しかしその数日後の大雨の日の夜、一際大きな雷鳴が轟き渡る。

 

翌朝麦畑で人々が眼にしたのは、所々が焼け焦げながらも立ち続ける案山子と、

その周辺で幾何学的な図形状に綺麗に踏み倒された収獲前の麦穂だった。

 

踏み倒され方があまりにも整然としていた事で、

雷神の力が関与したと解釈され、

その図形は雷神の紋章と名づけられた。

 

そして、案山子は姿を消していったのだという。

 

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巻頭付録 案山子型ペン立て

巻末挿絵 雷雲と麦畑

応募プレゼント  録音再生機能付き最新型案山子

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イブラシル暦 687年03月

週刊 英雄の居た風景

世に謳われた英雄の多くは

功績に相応しい地位と栄誉を得て、その名を遺した者たちだ。

 

しかし、ティターニア史において人々に語り継がれる英雄達は、

必ずしも栄光を掴んだ者たちではない。

 

 

かつてディアス軍の大侵攻を退けた立役者、

黒髪将軍クルーエと、監視塔の傭兵センプターの二人は

現代に於いても類を見ない英雄的存在だが、

彼らは最終的にティターニアで高い地位に就く事は無かった。

 

 

クルーエは、大侵攻当時バーリー要塞の指揮官であり、

緒戦こそディアス軍の奇襲を受け大敗したがその後体制を建て直し、

士気の高さと地の利を活かした防衛戦術で敵を疲弊させる。

 

そして、敵が長期戦に備え陣を動かした隙を付き

山道から精鋭を率いて本陣を急襲、敵指揮官を討ち取って大軍を撃退した。

 

本国ではクルーエに近衛兵長へ任命されると共に爵位まで用意されたが、

彼はそれらの栄誉を全て拒んだ。

 

そして彼は、自慢の黒髪を刈り落とし、

全ての戦死者の遺族の元を訪れたのち、国を去ったという。

 

 

一方のセンプターは、

壊滅したと思われた監視塔へ傭兵仲間らと救援へ駆けつけ、

僅かな手勢で上陸直前のディアス軍本隊を足止めし、

挽回の足掛かりを作った功績が讃えられた。

 

センプターはクルーエより指揮官の後任に指名されたが、

彼がそれを固辞し生涯監視塔に留まったのは、監視塔を巡る激戦で

想い人であった傭兵仲間が命を落とした事と無関係ではないだろう。

 

英雄とは誰よりも多く勝ち取った者であると同時に、

誰よりも多く喪いし者なのかもしれない。

 

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巻頭付録 英雄名言集カード

巻末挿絵 バーリー要塞西の古戦場跡

応募プレゼント  英雄名言集収録用バインダー

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イブラシル暦 687年04月

週刊 トライアード

地域文化が発展し交流が深まることで生まれるのが、

各地域の特産をミックスした新たな名産品である。

 

ティターニアの商業ギルドでは、交易品の要にと

賞金付で一般から広く『新たなる』特産品を応募した。

 

その結果優勝したのが、

通称トライアードこと、トライアードミルシアサンドだ。

 

 

香り高いハーミアの茶葉少量を練り込んだパンが使用され、

その間には刻んだドライフルーツのシェリー酒漬けを混ぜ込んだ

スイートベリーのジャムが挟まれた、大人の味のミルシアサンドだ。

 

開催場所であったティターニアでは、女王がその評判を聞き

その日のうちに再現させ持ってこさせた、という噂まで有る。

 

 

流石に遠方の特産品を組み合わせた逸品だけに、

世に出た当初は早々入手できるものでは無かった。

 

しかし、交易が活発になっていくにつれ、

徐々にではあるが市井へと出回りだしたようだ。

 

また、考案者の遺言により詳細なレシピが解放されたので、

自力で調理を試みる者も増えるだろう。

 

人々の創意工夫が生み出すこういった名産品は、

今後も増えていくに違いない。

 

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巻頭付録 トライアードモーニングセット引換

巻末挿絵 レシピの貼られた立て札

応募プレゼント  特製スイートベリージャム一瓶

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イブラシル暦 687年05月

週刊 旅の必需品

冒険に必要な道具と言えば、

すぐに思い浮かぶのは武器に防具だろう。

 

だが、戦う為のアイテムだけ有れば冒険できるわけではない。

 

生きていくのに必要な水や食料はもちろん、

野営の為の道具も必要になるだろう。

 

そして何より、まだ見ぬ戦利品を見つけた時に

それを収納する備えが無くては、冒険を実質手ぶらで終わる羽目になる。

 

だが、効率的に戦利品を得ていくには、更なる工夫が必要となる。

 

戦利品が持ちきれなくなってから最寄の街に戻り換金するよりは、

その分の時間も戦利品獲得へと費やした方が、より稼ぎになるからだ。

 

そうなれば、少しでも多くの物を一度に持ち歩く必要が出てくる。

別の袋かより大きな袋か、ロバか、荷馬車か、小型化の魔法か、

その選択肢は冒険者の好みに応じて様々だろう。

 

いずれの場合でも大切になるのは、

移動や戦闘の際にそれらがかさばらず、

かつ、緊急時に素早い取り回しが必要な物と、そうでない物とを

いかに仕分けて収納するのか、その管理技術に有る。

 

冒険者の中には、

そういった管理技術を積極的に伸ばしている者もいるようだ。

 

取らぬ狸の皮算用とはならないだけの備えが有るなら、

いつでもそういった管理技術を磨いてみるのも良いだろう。

 

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巻頭付録 ペンタストラップ

巻末挿絵 道具屋の陳列棚

応募プレゼント  イコサベルトポーチ

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イブラシル暦 687年06月

週刊 水路の果て・前編

その神秘的な光景で人気を博す帰らずの鍾乳洞だが、

脇道へ無闇に歩を進めるのはお勧めしない。

 

この鍾乳洞の地下深く、漆黒の闇の底には地底湖が広がっており、

鍾乳洞内の無数の脇道の多くはその地底湖へと続いているのだ。

 

滑りやすい岩肌を転げ落ちれば踏みとどまる術は無く、

まっさかさまに地底湖へと落ちてしまうだろう。

 

 

地底湖は言わば自然にできた巨大な水瓶だ。

 

漆黒の闇の中では辿り着くべき岸も見えず、

辿り着けても這い上がれない角度であれば、万事休すだ。

 

更には、時折起こる地底湖の水流にも注意を要する。

 

水面が数メートルの高さまで波立っている形跡が有り、

その瞬間は恐らく、まるで水瓶が振られているかのような状態であると推測される。

 

余程体力に自信の有る冒険者でも無ければ、

泳ぐ事すらままならず、溺れ死んでしまう危険性が高い。

 

 

さて、ここで不幸にも地底湖で溺れた事のある方は

不思議に思われたかもしれない。

 

沿岸部でありながら、この地底湖は海水ではなく真水なのだ。

 

周辺の地下水が流れ込んでいると推測されたが、分析の結果

なんと遠く大瀑布近辺に生息する藻が発見された。

 

もちろん太陽の光が全く届かないこの地で藻が繁殖できるわけはなく、

大瀑布から地底湖まで、藻が一定の形を保ったまま流されたという事になるのだ。

 

《続く》

 

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巻頭付録 蓄光機能付きワッペン

巻末挿絵 地底湖の静かな水面

応募プレゼント  携帯型瞬間膨張浮き輪

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イブラシル暦 687年07月

週刊 水路の果て・後編

地底湖で発見された、大瀑布に生息する藻の存在は何を意味するのか。

 

それは、大瀑布に近い場所から、恐らくは地下水路を通じて

この地底湖に直接真水が流れ込んでいる、という事になるのだ。

 

更なる採取では、他にも

大陸中央部に生息する植物やヨウィーの骨などが発見され、

上記の仮説が裏付けられる調査結果が得られている。

 

 

そして、この新たな発見により、

一つの古代史の謎が注目を浴びている。

 

かつてティターニア北部の山岳地帯には、生贄の儀式を行っていた蛮族達がおり、

数年に一度土地神への捧げ物として、大瀑布に若き男女を投げ入れていた。

 

その際に女性が身に着けていた指輪には、捧げ者を確実に土地神へと届ける為に

強力な水の魔力が込められていたという。

 

しかし、彼らの風習や生活様式、

更には発掘調査で指輪が見つかっていない事から、

魔法の指輪やそれを生み出したという技術は、

創作であるという説が一般的であった。

 

だが、大瀑布から地底湖へと続く地下水路の存在が明らかになった事で、

この定説が覆る可能性が出てきた。

 

もしも地底湖で指輪が発見されたならば、これまでの仮説は覆り

大陸中央部における古代史そのものが大きく書き換わっていく

きっかけになるかもしれないのだ。

 

 

だが、学者達の熱狂を余所に、

地底湖は今日もひんやりとした静寂に包まれている。

 

あの大瀑布の中に投げ入れられたのは指輪だけではない。

 

遠く故郷を離れた水路の果て、この漆黒の闇の底には、

朽ちていった若者達の想いが今も尚、眠っているのだろう。

 

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巻頭付録 鍾乳洞饅頭(2個)引換券

巻末挿絵 大瀑布からの遠望

応募プレゼント  鍾乳石のペアマグカップ

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イブラシル暦 687年08月

週刊 古灯台リフォーム計画

建造より百余年。

 

時代の流れと共に風化が進む古灯台に今、

リフォーム計画が持ち上がっている。

 

黒い霧が晴れた事で

リーブルフォートからアストローナ大陸への海路は回復したが、

かつてミルシア方面まで伸びていた海路を回復させるには

古灯台の機能の回復が不可欠だからだ。

 

大型船を使える海路であれば、

陸路に比べ倍の早さと輸送量が確保され、

商業的な利点も大きい。

 

更に、この計画に注目しているティターニアからは

支援の申し出もあるのだという。

 

アストローナ大陸に対しても

領土的な野心を見せるバルバシアは共通の敵であり、

ディアスからの大規模な援軍を期待するならば、

ディアスからミルシアを経由し一気にアムスティアまで

軍を動員出来る海路の確保は非常に魅力的だからだ。

 

 

ティターニアでは当初、

ディアス軍を東岸から受け入れる案も出ていた。

 

しかし、その東岸はかつてディアス軍が

イブラシルへの侵略時に押し寄せたた場所でも有り、

侵略路をなぞってディアス軍を呼び入れる事に

強い抵抗を示す者達の声で、その案は頓挫してしまった。

 

そんな状況も有り、

古灯台リフォーム計画には大きな期待がかかっていたのだが、

現在、このリフォーム計画にも暗雲が立ち込めている。

 

歴史的建造物に手を加えるべきでは無いと主張するティターニアの資産家や、

陸路の開発で財を成したリーブルフォートの商人による反対が起こったからだ。

 

 

結果、ディアス軍の派遣は未だ実現していないのだが、

一説には彼らはバルバシアへ内通しており

同盟阻止に動いているとも噂されている。

 

事実、アストローナまで侵入した偵察兵も

多く目撃されており、彼らの諜報活動により

バルバシアに与し得る人間を探し出し、

篭絡した可能性は否定できない。

 

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巻頭付録 変装用付け髭4種

巻末挿絵 夕暮れに佇む古灯台

応募プレゼント  高性能双眼鏡

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イブラシル暦 687年09月

週刊 虹を描きたくて

空の芸術、虹に魅せられる人は時代を問わず数多い。

 

イブラシルでも特に美しい虹が見られる場所として知られているのは、

 

夕立後の山脈を背に雄大な巨躯を浮かび上がらせる聖者の丘

 

四方を覆う水飛沫が幻想的なパノラマを生む大瀑布

 

広大な大海原に跨る大輪を咲かせるアウストリ海岸

 

の3つだ。

 

 

魔術師と言うと

頭は良いが少々変わり者、という印象を抱くものだが、

 

これらの虹に強く惹かれ

その風景を描き続けているエレディ=マーセルは、

変わり者の多い魔術師の中にあっても

更に異端児と言える存在だろう。

 

 

代々魔術師を輩出し続けたマーセル家の一員であり

魔術大学でも上級魔術師間近と言われる程の才能を持っているが、

 

「魔術師なんかより画家になりたかったんだ」

 

と言い放ち、研究室に寄り付かない事で有名だ。

 

 

エレディは研究室に顔を出すことは稀で、

研究の為と称しては大瀑布や聖者の丘、

アウストリ海岸を初めとする虹の名所に赴いて、

絵を描いてばかりいた。

 

しかし、そこで問題となるのは移動時間の長さだ。

 

そういった場所へは歩けば数ヶ月以上、

テレポートで最寄の街へ飛んだとしても、

そこから更に1ヶ月前後の移動を要してしまう。

 

そこでエレディは、独自に

テレポート分野の魔法を研究し始めた。

 

その結果、これまでの

 

 「術者が過去に通過した都市の座標へ戻る」

 

という機能に座標を抽象化・象徴化した

術式を宿らせた術具を組合せる事で、術具を設置した場所へと

テレポートする技術を編み出す事に成功した。

 

 

以後、エレディは研究に費やした時間を取り戻すかのように、

日々各地の虹を追い描く、充実した生活へと戻ったようだ。

 

設置された術具を守る人員を必要とはするものの、

今後この技術は世の中へ広く浸透していく事だろう。

 

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巻頭付録 プリズムピアス

巻末挿絵 聖者の丘の虹

応募プレゼント  高級画材セット

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イブラシル暦 687年10月

週刊 夢か、現か

エルクアールの魔術大学は

魔術を志す者が目指す学び舎であると同時に、

古今のありとあらゆる分野の魔術研究においても

最先端を担う存在である。

 

とは言え、様々なタイプの魔術師が集まるこの場所では、

様々な騒動にも事欠かない。

 

 

ルーン魔術について研究しているグループの一つでも、

つい最近ちょっした事件があった。

 

最近になって新しいルーンストーンが

各地の塔の地下で発見されたのだが、

 

複数の研究グループがこの新しいルーンストーンを競って集め、

研究成果を競い合っている。

 

そんな中、ある一つの研究室で、深夜に大爆発が起こった。

 

その研究室にいた魔術師は幸いな事に軽傷で済んだのが、

事の顛末を問い詰められたその魔術師はとんでもない事を言い出した。

 

「これまで見た事も無い、とんでもない魔物を召喚する事に成功した」

 

「研究室を吹き飛ばした爆発も、その魔物の力によるものだ」

 

この発言を聞いた魔術師たちは大いに色めきたったのだが、

当の魔術師はなんと研究の合間に飲んでいた酒のせいで半ば泥酔状態であり、

肝心の配置については全く再現できなかった。

 

彼の言うルーン配置は本当に実現できたのか、

それとも銘酒の見せた夢なのか。

 

爆発が起きたのは事実なのだが、研究はまだまだ続きそうだ。

 

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巻頭付録    ルーン早覚え表

巻末挿絵    市場のルーンストーン

応募プレゼント ルーン配列タペストリ

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イブラシル暦 687年11月

週刊 神の玉座

何者にも侵されず、何者からも傅かれ、何者をも平伏させる。

 

玉座とは、そういった存在の象徴だ。

 

玉座が輝く地には、約束された豊穣、壮麗な宮殿、

そして何よりも、人々の笑顔が満ち溢れている。

 

それとは逆に、この世界で最も荒涼とした玉座が、

この世界の最も過酷なる地の果て、グニタ荒野だ。

 

どこまでも続く乾きひび割れた大地と巻き上げられた砂埃以外には、

屈強な魔物の類が徘徊するのみであるこの荒野には、

かつてドヴェルクの亜種とされる種族が築いた王国があったという。

 

地の底で磨かれた技術を以って

大いに繁栄したその王国に終焉をもたらしたのは

 

他ならぬ玉座の主、

異常なまでの傲慢さに憑かれし者・ファーヴニルだった。

 

 

己の力を誇示する為に禁断の秘儀に触れ強大な魔力を手にした彼は、

文字通りありとあらゆるものを“平伏させた”。

 

諫言した大臣や王子や議員達を

「玉座を睥睨せし輩」と断じ処刑したばかりか、

玉座より高きに位置するあらゆる存在、

木や建物、山々すらも踏み潰したのだ。

 

輝ける王国はいつしか平らに均された荒野ばかりとなり、

魔力に呑まれ竜へと変貌した王だけが徘徊する広大な"玉座(封印)"となった。

 

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巻頭付録    玉座気分の椅子カバー

巻末挿絵    神竜の描かれた壁画

応募プレゼント 玉座気分の椅子カバーデラックスゴールド

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イブラシル暦 687年12月

週刊 名店の扉

他の国には見られない独特の名店が軒先を連ねる、

芸術と巧の技術の都・バルバシア。

 

だが、現在戒厳令下に有る為か、

ほぼ全ての店が営業停止を余儀なくされており、

自慢の店々を回る事が出来るようになる見通しは立っていない。

 

 

戦争の是非はひとまず置いておくとしても、

 

アルヴヘイムを併呑し多方面へ侵攻していると言う点では

現時点で最も戦勝国に近い国家の首都としては、

いささか重苦しすぎる状況ではある。

 

いかなる形であれ、イブラシルを愛する一人の旅人としては

一刻も早い営業再開が待たれるところである。

 

 

さて、現時点では訪れる事が出来ないのだが、

バルバシアを訪れたならば是非立ち寄って欲しい名店をご紹介しよう。

 

そこは、芸術家が多いこの街ならでは、

極上の炭酸水を出す名店・シダーズカフェだ。

 

冷たさの中に独特の刺激と酸味を秘めた炭酸水は、

芸術家や技術者がちょっとした疲労を癒したい時、

 

あるいはインスピレーションを得たいときに愛飲しており、

酩酊をもたらすアルコール類よりも好まれる傾向にある。

 

炭酸水を出す店は多いのだが、

とりわけシダーズカフェは他の炭酸水を提供する店には無い

多彩にして独自の風味付けで評判である。

 

その人気は、老若男女を問わず、

市民・芸術家や技術者から街の名士に至るまで

バルバシアの住民なら一度は訪れると言われる程だ。

 

名店の扉を叩く。

 

そんな、旅の楽しみの一つが

バルバシアでも味わえるようになる日が、

一日も早く訪れる事を願うばかりだ。

 

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巻頭付録    シダーズカフェのコースター

巻末挿絵    炭酸水サーバー

応募プレゼント 特選炭酸水詰め合わせ

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イブラシル暦 688年01月

週刊 最後の晩餐(仮称)

バルバシアの静まり返った町並みを見た旅人達は、

その静寂の中で息を潜める住民達を不憫に思うかもしれない。

 

しかし、時に芸術家や技術屋といった人種は

独特のシニカルさでその状況を楽しむ

ふてぶてしさを備えていたりもするものだ。

 

酒場や宿屋、市場や教会に至るまで、

その門戸は堅く閉ざされている。

 

しかし、それらの静まり返った店が

本当に営業していないのかどうか、

確かめるのは、意外と難しいものだ。

 

 

比較的安手の酒場が居並ぶ裏通りで営業している

「最後の晩餐(店名は都合につき仮称)」もまた、

人々の鬱憤を晴らす場として隠れ営業をやっている店だ。

 

裏通りからすらも死角となった裏口の門をくぐり、

半地下となった倉庫の隠し扉から少し下った一角。

 

そこは建物の構造上はあるはずの無い空間であり、

営業している事が外部には漏れにくい仕組みになっている。

 

もっとも、

酒場特有の馬鹿騒ぎとなっては、さすがにこの構造でも

音漏れを防ぐことは困難だ。

 

そこでこの店におけるルールとして、会話の際には必ず

 

最初に「ピアニッシモ(とても弱く)、」

 

と一言発して、言葉を続ける事になっている。

 

皇帝や宮廷魔術師に対する不満を

口々に言い合っていれば、自然と興奮も高まるものだ。

 

しかし、このルールを遵守する事で、

無意識に大声を出すリスクが下がると言うわけだ。

 

普通に店が営業再開するに越した事は無いのだが、

こういった風情を味わってみるのもまた一興かもしれない。

 

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巻頭付録    バッテンマスク

巻末挿絵    バルバシアの路地裏

応募プレゼント シークレットメンバーズカード

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イブラシル暦 688年02月

週刊 カタコンベに眠る者

ティターニアの西にあるカタコンベとは、

初代国王・オベロンをはじめ王族・貴族の

遺体を安置した共同墓地である。

 

地上部分の壮麗な祭礼場から階段を下ると

迷路のように入り組んだ回廊が広がり、

 

回廊の壁に彫られた穴の一つ一つが

棺桶の役割を果たしている。

 

 

さて、この迷路のような回廊は数層に及ぶ構造となっており

地下深い程高貴な人間が納められているとされている。

 

その配置については、

最下層に眠る初代国王からの序列に応じたもの、

 

或いは副葬品に高い価値が有るため盗掘を防ぐ為、

といった理由が挙げられているがそれ以外にもう一つ、

公言されていない歴史的な事情が有るのだという。

 

実は、カタコンベの下層に安置された

爵位を冠する遺体の大半は断絶した家系なのだ。

 

名家が断絶する事自体は珍しく無いが、

いわば無縁仏となるような事態が

遺体の数に見合うだけ起こっているとは考えにくい。

 

墓守の言によれば、

彼らの多くは初代国王オベロンに追従したとの事だが

 

功績どころか生前の所業が一切伏せられ、

一部の研究ではその悪逆ささえ伝えられている

オベロン王の実態を考えれば、

 

彼もろとも粛清された、と解釈する事も可能だ。

 

 

歴代女王の賢政によって着実に国力を高めていったティターニア。

 

この国で爵位を与えられた一族は、

末代まで及ぶその恩に対して

その生涯だけでなく、死後に至っても

忠誠を尽くす誓いを立てるといわれる。

 

一族と国家の繁栄を死後も願うようにあるべし、と取られるこの誓いであるが

 

カタコンベにまつわる逸話を知るとまた別の意味に感じられる事であろう。

 

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巻頭付録    カタコンベ案内図

巻末挿絵    カタコンベ入口の石碑

応募プレゼント 要人用カタコンベ使用優先券

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イブラシル暦 688年03月

週刊 亡者の宴

いかなる猛者にとっても、

いかなる智者にとっても、

いかなる権力者にとっても、

 

逃れられぬ死を冒涜する事は禁忌と言えるだろう。

 

とある男に課せられた罰は、

それを象徴する逸話と言えるだろう。

 

 

かつてとある豊かな地にて、

豪奢な館にて人々を治めていた男がいた。

 

知識豊かで容貌も優れてはいたが

それ以上に狂気に恵まれており、

 

時折周辺の住人を館に攫っては

有形無形のあらゆる手段を用いて弄り続け、

驚愕と恐怖、やがて絶望へと変わる様子を楽しんだという。

 

男の行いに恐怖した人々は

男への神罰を願わずにはいられなかったが、そうはならなかった。

 

男の狂気は更なる饗宴をその地へ呼び寄せ、

やがては死に満ちた地へと変貌を遂げたのだ。

 

 

とある朽ち果てた邸より奇跡的に生還した旅人は、

そこでの光景をこう語っている。

 

声に招かれ奥へと進むと、

館の主人が暗闇の中より自身に訪れた悲劇を語りかける。

 

かつては多くを従える身であった自分が、

今は多くの者に仕える身であると。

 

彼らを満足させるべく極上の逸品を献上し、

その奉仕に見合う対価として大事な物をほんのひと時、

取り戻すことが出来るのだと。

 

 

やがて暗闇から這い出てきたそれは、

首から上を持たぬ異形の姿。館の主人は顔を奪われていた。

 

男の歪んだ嗜好はより強大に歪んだ者たちを呼び寄せ、

その地諸共支配されるに至ったのだ。

 

男の姿に一瞬驚愕し、そして恐怖し、

やがてその身に訪れる死に絶望の表情を浮かべた旅人は、

 

驚愕する自分と、恐怖する自分と、絶望する自分の顔をした

異形に貪り食われていく。

 

一方その間主人は、目の前に現れる自分の顔をした異形を見て、

在りし日の自分を取り戻すのだ。

 

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巻頭付録    どっきり用黒覆面

巻末挿絵    湖沼の廃屋

応募プレゼント 日替わりモンスターホログラム発生装置

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イブラシル暦 688年04月

週刊 春を呼ぶ実

生命の芽吹く春。

凍てつく寒さや外界を閉ざす雪から解放される季節。

 

何処の国でも、

春の訪れは待ち遠しく感じられるものだが、

アルヴヘイムの人達が感じるそれは、

他の国の人々の比ではないだろう。

 

 

新芽が融けた雪をかき分けて顔を出す頃、

アルヴヘイムの家々では貯蔵されていた壷が

満を持して引き出される。

 

壷の中身は冬が訪れるまでに集められた木の実と

昨春から昨夏にかけて採られた蜂蜜が

ぎっしりと詰まっている。

 

いわゆる、木の実のハチミツ漬けだ。

 

 

アルヴヘイムの冬は長い上に

春の芽吹きの時期は年によって微妙に異なり、

 

気まぐれに冬の精霊が長居すれば

その間の食料事情は厳しいものとなる。

 

木の実のハチミツ漬けは

そんな冬を支える貴重な食料なのだ。

 

そして、春が訪れるまでは極力温存されるが、

その時が来たならば春の訪れを祝して、

残った甘味を全て味わい尽くしてしまう。

 

 

贅沢には縁遠いこのアルヴヘイムにおいて、

春を迎えるこの日は一年で最も

贅沢が許される日なのだそうだ。

 

 

なお、この甘味の一部は

森林の守護者たる光の妖精へも捧げられる。

 

この甘味が来年も食べられるならば、

きっと妖精たちも喜んで

彼らに恵みをもたらしてくれるだろう。

 

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巻頭付録    ハチミツキャンディー

巻末挿絵    アルヴヘイムの雪解け

応募プレゼント 木の実のハチミツ漬け詰め合わせ

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イブラシル暦 688年05月

週刊 終焉の組曲

歌や演奏、特にその旋律に込められた力を導き出す法則を、

長い時間をかけて体系化してきたのは、吟遊詩人や演奏家達であった。

 

魔法使いたちが新しい魔法を手ずから生み出す事を願うのと同様、

彼らもまた歌が生み出す新しい世界を望み、開拓していった。

 

その中でも、最も執念をもって開拓に挑んだのが、

ブリックシュレイア一族だ。

 

 

稀代の作曲家であった

ブリックシュレイア一族の長・バルトハイムの作曲の本領は、

自分自身ですら頭の中に完成形を持たず旋律の赴くままに

次の章を導いていくという独特の手法であった。

 

楽句を一つ一つ解き進み旋律へと導いていくその過程で、

彼はその先に新たなる歌の力がある事を確信する。

 

 

しかし、

彼の力と自身の命の時間全てを以ってしても

力の発現には至らず、

彼の望みはその息子へと託される事となった。

 

親の天賦の才を引き継いだ子もまた

旋律の迷路の歩を進めるが

 

やはり道は険しく、その望みは

更にその子へと託される事となる。

 

特に「自らこそは受け継がれた夢を果たす者」であると

意気込んだはずの4代目は、終わり無き探求の日々を

絶望の内に過ごし、若くして息を引取ったという。

 

 

その後を継いだのは、

4代目の子を宿した彼の身重の妻であったが、

我が子を作曲家として育てる傍ら

一族の因縁と戦い続けた彼女もまた、自ら命を絶ってしまう。

 

やがて一族の深い因縁は、その少年が老人となる頃、

終章が導かれ完結する事になる。

 

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巻頭付録    五線譜

巻末挿絵    街角の弾き語り

応募プレゼント 終焉の組曲再現CD(Bossa Novaバージョン)

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イブラシル暦 688年06月

週刊 ミルシアサンド配達人

ミルシアの街で愛されている名物・ミルシアサンド。

 

その魅力は今更挙げるまでも無く、

人気はミルシアに留まらない程となった。

 

さて、そのミルシアサンドをこよなく愛する者、と言うと

一体どんな人物を想像するだろうか?

 

 

これまでにミルシアサンドをもっとも食した人物

或いは好きが高じてミルシアサンドの作り手となった人物

 

もしくは、ミルシアサンドの生みの親となった人物、など

様々なミルシアサンド好きな人物が想像できるだろう。

 

しかし、ミルシア周辺でその人物を問うたならば、

マリル=ミュライアの名が最も挙がるだろう。

 

 

彼女は元々冒険者であり、主に旅の商人を護衛しつつ

イブラシル大陸の各地を転々としていた漂泊の人物であった。

 

しかし、ミルシアに立ち寄った際にミルシアサンドと出会い

その味に魅了された彼女は、以後ミルシアに腰を下ろす事となる。

 

そして、近隣の討伐で得た稼ぎでミルシアサンドを買っては、

それを頬張りながら次の討伐へ赴く日々を送った。

 

 

やがてマリルは、この素晴らしい出会いを

より多くの人間に届けたいと願い、

 

ミルシア近郊の小さな村を巡りミルシアサンドを売り歩く生業を始めた。

 

冒険者時代に培った戦闘技術と運搬技術を活かし、

行商人には無いフットワークでミルシアサンドを新鮮なうちに

各地に運んでは、儲けもそこそこに売り捌いていく。

 

そして、美味しそうに頬張るお客の表情を

楽しそうに眺めているそうだ。

 

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巻頭付録    マリル宅配のステッカー

巻末挿絵    ミルシアサンド宅配サービスの看板

応募プレゼント 新作ミルシアサンド(オニオンサラミ+ペッパーナッツ)

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イブラシル暦 688年07月

週刊 マルティア大森林快晴につき

マルティア大森林の旅人達の行く手を遮る最大の敵は、

モンスターよりも気候条件と言えるだろう。

 

雨が比較的多い地方では有るが、

森林南部は北側の高山地帯から大量の水が流れ込み

地べたを歩くしかない旅人の足取りを重くする要因となるのだ。

 

 

鬱蒼とした木々は水分を蓄えやすく、

この地に出没するモンスターにもそれが反映される。

 

苔が変質したモールド、半妖半茸のマイコニドといった植物系に加え、

水精ウォーターエレメンタルや、

海水淡水を問わず多くの水域に住むシースネイクなどがそうだ。

 

この先に出没する強靭な種に比べればさして脅威でもないが

絶好の繁殖地を得て増え続ける彼らの相手をするのは

精神的には堪えるだろう。

 

 

ミルシアが開拓され隊商が立ち寄る一大拠点となった現在はともかく、

ほんの百年程度を遡ればこの地は交易路には不向きだ。

 

とはいえ、黒い霧が海を覆った時代を経てはそうも言ってられず、

現代に至る技術を駆使し交易路の整備が進められることとなった。

 

 

そうした整備の最中から、ある風習がこの近辺に根付くようになる。

 

マルティア大森林を横断するに当たり、

少しでも雨による影響を受けずに済むよう、

道と旅人と馬車を照らす太陽の紋章を木々の幹に彫るという

一種の気休めに近いお呪いだ。

 

 

それでも、所詮は気休め、雨が降るときは降るものだ。

 

しかし、雨が上がるのを念じて一心不乱に紋章を彫っていれば、

いずれは雨が上がるものだ。

 

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巻頭付録    てるてるぼうず作成キット

巻末挿絵    切り株に彫られた紋章

応募プレゼント 太陽の雨傘

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イブラシル暦 688年08月

週刊 猛き胃袋の王国

いくつかの秘境を除けば、

現在のイブラシル大陸を治めているのは人間であると言えるだろう。

 

だが人間以外の、例えば一部のモンスターにも、

彼ら独自の社会を築く者達がいる。

 

人間を食料と見做し襲い掛かってくる、オーガ達もその一つだ。

 

 

最もその姿を最も多く見かけるのは、イブラシル大陸南東部だろう。

 

古灯台・ミレット山道からバーリー要塞に至るまでの街道は勿論

ミレットやティターニア近辺にも彼らオーガは多くの場所に出没する。

 

個体差が大きい事が一つの特徴なのだが、

彼らはオスメスで役割を分けたりはせず

階級のみが存在し、階級によって互いを呼び合うとされる。

 

 

一方上位種はというと、イブラシルの北部や東部に点在しており

いわゆる下位層のオーガとは別の場所で遭遇することがほとんどだ。

 

イブラシル東南部も広大では有るが、

彼らはそれだけの土地に満足はしない。

 

彼らの食欲を満たすため、その繁殖力と膂力と無謀さで

版図の拡大を狙っているのだ。

 

さて、では上位種はイブラシル南東部にはいないのか?

 

答えは、いる。

 

だが実質的に統治者である彼らを直接見ることは無いだろう。

 

 

彼らは支配する事には熱心でも、荒事も面倒毎も部下任せで、

支配に必要な暴力以外の知恵も持ち合わせておらず、

街道に姿を見せたりはしないからだ。

 

そんな彼らが

互いを階級で呼び合うのはいささか不釣合いではあるが、

彼らはシンプルな唯一つの法則、満たすべき胃袋という

狭い範囲で繋がっているのだろう。

 

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巻頭付録    オーガ階級章ステッカー

巻末挿絵    オーガの玉座(切り株)

応募プレゼント 1/20スケールオーガフィギュア

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イブラシル暦 688年09月

週刊 釣匠

ノアトゥーンのサーモンステーキの豪快さは、

食卓における存在感はもちろんその体躯そのものも

決して見劣りするものではない。

 

漁師達の経験に加え、器具に加えられた改良の甲斐有って

大規模な漁が可能になったが、一昔前はこうはいかなかったのだ。

 

 

かつて海で獲物を捕ろうとするなら、

銛で直接仕留めるか釣り上げるしかなかった。

 

それ以外、例えば戦士の武器や魔法使いの魔法では

その身を損壊する可能性が高いし、

眠りや麻痺の魔法では詠唱している間に逃がしてしまう。

 

彼らとの対峙にはそれ専門の技術、

まさに高度な一騎打ちの技術が要求されたのだ。

 

 

相手の庭での戦いにおいては、

敵とのせめぎ合いに耐えうる強靭さも然る事ながら

大陸一といわれる鍛冶技術によって産み出された

釣具が力を発揮した。

 

中でも、

こちらの間合に引き込む為の最初の一撃を加える為に産み出された

 

高速で泳ぐ彼らの眼に止まり

水流の中で巧みにその身を躍らせ

そして深く喰らいかせる

 

絶妙なフォルムを持ったミスリルルアーは、

同じ素材のアクセサリと同等の価格で取引された。

 

 

それだけの逸品が生み出されたのは、

製作者の鍛冶技術もさることながら

漁師との二足の草鞋をこなし、自らの体験をもって

ミスリルルアーの完成度を上げた処にあるだろう。

 

彼が最後に創作し、

海に姿を消した日の漁へと持っていったルアーが

もし発見されたならば、稀代の名匠による最高傑作として

世間を賑わす事になるだろう。

 

今では趣味の逸品となってしまったミスリルルアーだが、

今でも所有を望む者は多いそうだ。

 

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巻頭付録    ルアー型ピアス

巻末挿絵    早朝の鮭漁船団

応募プレゼント アダマントルアー

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イブラシル暦 688年10月

週刊 太陽と月

イブラシルには数多の形状の武器が有るが、

防具である盾もまた人気の高い武器と認識されている。

 

盾を武器として使う場合、

その大きさと重量は武器としての取り回しが困難であり

他の武器程の攻撃効果は望めないが、

補って余りある防御効果は魅力だ。

 

 

ラウンドシールドのメッカ・ディアスは、

この盾が生まれた地でもある。

 

このディアス出身で盾の使い手と言えば、

エイリ傭兵団を率いた団長・エイリ=シュドリアの名が挙げられるだろう。

 

左右の手に攻撃盾を携えるそのスタイルは

一撃の重さには期待できないが、

他の能力を阻害しない堅実さと堅い守りを活かす戦い方は、

現代においても有効な戦術だ。

 

 

彼女は『部下共のケツを蹴飛ばす為』

と称して必ず危険な先頭に立っていたが、

 

どんなに過酷な戦場でも彼女が膝をつく所は見た事が無い、

と言わしめる程の使い手であった。

 

前線で常に部下達と共にあり、

その戦いを照らし支える様は、彼女の2枚の盾に準えて

傭兵団の沈まぬ太陽と月、不敗の象徴と言われる程であった。

 

 

彼女を慕う猛者たちの団結力によってまとまっていたエイリ傭兵団だったが、

盾の一つを失った最後の戦場において、エイリは命を落としてしまう。

 

彼女と言う太陽を失った傭兵団は、

程なく解散の途を辿る事となったようだ。

 

ちなみに余談ではあるが、

彼女の唯一とも言える欠点はその酷いイビキであった。

 

そのイビキを

『真夜中に太陽と月を拝んでるかのようだ』と揶揄した記録が有り、

彼女の二つ名の由来はこちらではないか、とも言われている。

 

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巻頭付録    太陽と月カスタネット

巻末挿絵    武器屋に並ぶ盾

応募プレゼント ゴルダガーディアンレリーフ付きラウンドシールド

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イブラシル暦 688年11月

週刊 爆薬魔晶

死と隣り合わせの冒険において、

退路の確保は軽視できない課題だ。

 

もっとも、逃走を図る獲物を見逃してくれるほど、

モンスターも人間も甘くはない。

 

逃亡中に格好の標的となる無防備な背中は、

消耗した状態で守り抜くのは非常に困難である。

 

となれば、

そういった事態への備えは戦いが始まる前に仕込んでおいた上で

消耗した状態でも戦術の行使が可能な手段が理想的だ。

 

 

その点で、身体の危機的状況において自動的に作動する自爆は、

条件に一致する手段と言えよう。

 

火力によるダメージではなく、

爆風や爆音・噴煙や粉塵の発生へとエネルギーを費やすという

特異な戦術では有るが、火薬の活用法としては

銃器と対となる形で発展した歴史を持っている。

 

勿論火力に重きを置いていないとは言え、

逃走のドサクサで相手を爆発に巻き込んで倒す事も可能だ。

 

 

こういった爆発物を抱えての戦いは、

その分戦術にも縛りを与えるデメリットがあるのだが、

近年では衣服に仕込む事が出来る爆薬が発見されており

戦術を狭める事無く使用する事も可能となった。

 

技術として習得するしかないこれまでのタイプとは異なり、

人の手から手へと渡る爆薬は取引が可能であり

攻撃・防御に次ぐ第三の戦術を試す機会が広がったとも言えるので、

手軽に試してみるのも一興だろう。

 

 

一方この爆薬を、保険の為の技術ではなく、

それそのものを目的とした危険な芸術へと昇華した者達もいる。

 

より濃度の高い爆薬とされる「ワンスター」

更にその上位の爆薬である「ツースター」という隠語も生まれ、

取引市場は更なる過熱の様相を呈しているようだ。

 

取引物を仲介する商人達がいたならば、気をつけられたい。

 

互いの荷を知らない商人同士が同時に襲われ、

意図せぬ連爆に巻き込まれる事も、皆無ではないのだから。

 

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巻頭付録    爆発物注意鉢巻

巻末挿絵    距離を置いて陳列される爆薬

応募プレゼント 爆弾デザイン黄金レリーフ

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イブラシル暦 688年12月

週刊 アルヴヘイム包囲戦

アルヴヘイムは現在、バルバシアの占領下にある。

 

その決め手となったアルヴヘイム包囲戦は、

メティウス大森林の2割ほどを数夜で失うという壮絶な幕切れとなった。

 

王族は辛くも大森林の奥へと身を隠す事に成功したものの、

他国の支援も思ったように得られず、苦境は未だ続いている。

 

 

光の妖精達による加護と、エンシェントハンターを始めとする

手強い森の怪物たちに、流石のバルバシアも初めは手を焼いていた。

 

しかし、満を持して投入された特殊ゲリラ兵の戦術により戦況は一変する。

 

最大の難敵だったエンシェントハンターは、連携と手数に優れる一方で

個の脆さを突かれ、敷き詰められた罠に自滅を余儀なくされた。

 

また、銃器等の飛び道具を使わず罠を中心に戦うゲリラ兵達は

妖精たちの制約にもかかりにくく、着実に侵攻の歩を進める事となる。

 

勿論、バルバシアの大軍は妖精の惑いによる足止めを余儀なくされていたが

ゲリラ兵たちが火を放ち始めた事で突破口を得て進軍を開始。

 

煙と炎に巻かれ倒れていく自軍の犠牲すらも厭わず、

森を焼き払い突入を成功させた。

 

この王城占拠の際、バルバシアは王の幽閉を宣言し

アルヴヘイム軍を投降させようとした。

 

しかし、バルバシア側の宣言は王の捕捉に失敗した事を

隠す為のものと言われている。

 

王城陥落の際、一体のフォレストハウンドが

包囲をすり抜けるように城内へ走りこみ、

王を場外へ連れ出し森へと消えていく姿が目撃されているからだ。

 

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巻頭付録    小型ブーブークッション

巻末挿絵    焼かれた一部の森林

応募プレゼント 1/6スケールフォレストハウンド

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イブラシル暦 689年02月

週刊 連なるもの

アルヴヘイムの地では、妖精たちは気まぐれと言う言葉の代名詞だ。

 

実際のところ妖精たちにも個性は有るらしく

古い逸話においては義理堅い性質の妖精や

嫉妬深さや執着を露にする妖精の存在も見受けられるが

 

アルヴヘイム周辺・特にメティウス大森林で遭遇する妖精達には、

戸惑わされる事が多い。

 

 

そんな彼らを従え、

アルヴヘイムに加護をもたらしてきた光の妖精には、未だ謎も多い。

 

アルヴヘイム陥落後もバルバシアに大陸支配の全権を

渡すに至っていないのは、メティウス大森林の守護神たる光の妖精の加護が

まだ失われていない事も一因とされるが

 

そもそも、光の妖精がいかなる経緯で大森林の守護者となり、

いかなる盟約がアルヴヘイムという国家、或いは王家と結ばれたのか、

明確に知る者も居ないからだ。

 

 

光の妖精による加護は、

法の明文化へと至る有史時代には既に存在したとされる。

 

一つ興味深いのは、加護をもたらす古き盟約が一度たりとも、

悪王により私物化されたり、部族や国家間による争いの種となった記録が無い、

ということで、これは特筆すべき点と言える。

 

時として血族を超えた王位継承の際にも口伝である事が貫かれているとの事だが、

これはまさに人の弱さを超越した法と言えるのかも知れない。

 

 

25年前の陥落以来、当代の王は以前行方を眩ませたままだ。

 

にも関わらず、未だ大森林に加護が働いているのは、

『盟約も王も失われていない』

というアルヴヘイム住人にとっての希望の大きな根拠となっている。

 

形なき力と法ではあるが、

長きに渡り人々を連ねてきた思いには、感嘆するばかりである。

 

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巻頭付録    多機能携帯手

巻末挿絵    古くなった罠を入替えているバルバシア特殊ゲリラ兵

応募プレゼント 暗闇で光る万年筆

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イブラシル暦 689年03月

週刊 王の帰還

長き戦役は、イブラシル大陸の多くの国家にとっては

意外な形で収束を迎えつつある。

 

影武者や魔法の幻影による錯乱とも噂されるが、

皇帝ダバロスの崩御、或いはそれに比する事態の発生により、

バルバシア軍の動きが鈍くなっている事は確かなようだ。

 

これらの情勢を受けてか、

実に25年ぶりにアルヴヘイムの王が帰還したという。

 

 

王の下で再起を図る次世代の騎士達や市民達の

結束は強く、士気は非常に高い。

 

また、アルヴヘイムを愛するのは、彼ら住人だけとは限らない。

 

遠い旅路の果てにアルヴヘイムを訪れた冒険者の中には

独特の風土に愛着を抱く者も多く、彼らもまた独自の戦いを繰り広げている。

 

この地をこよなく愛する彼らの結束ならば、

この地を取り返す日もそう遠くは無い。

 

 

国家の危機に不在となった王を非難する者もいるだろうが、

光の妖精の加護こそが最後の砦であった

アルヴヘイムの事情を考慮すると、止むを得ない状況だっただろう。

 

その点で、アルヴヘイムの王は自身の有るべき役割を弁えていた。

 

誹謗に屈することも、挑発に乗ることもなく、

最善の守護に専心し帰還を伺った25年間の孤独こそが、

自身の戦いの場であったと。

 

もし王自身の強さがイコール国家の強さとなるならば、

イブラシル最強の一角と目される皇帝ダバロスが治めるバルバシアに

死角はなかっただろうが、

 

彼の強さを持ってしてもそれを証明する事は叶わなかった、

と言えるのかもしれない。

 

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巻頭付録    アルヴヘイム王帰還記念切手

巻末挿絵    小鳥と戯れるピクシー

応募プレゼント 木の実のハチミツ漬け詰め合わせ

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イブラシル暦 689年04月

週刊 古灯台リフォーム計画?

時間の止まったかのような佇まいを思わせる、古灯台。

この地に今、新しい風が吹き抜けようとしている。

 

リフォームか、保存か。双方の意見が衝突し

事態はこの数年泥沼化していたのだが、

どうやら、新たなる技術がその突破口を開くことになるようだ。

 

 

イブラシルにおける長き戦役に終結の兆しが見えてきた今、

疲弊した各国の国力回復に航路の復活は不可欠、

と言う意見が高まってきている。

 

これを受け、かつて北方航路を拓いた

「旧き開拓魂の末裔」オブライエン一族はリーブルフォートこそが

新たなる航路の開拓を担うべしと訴え、

 

既得権益にすがりつき航路に反発していた

リーブルフォートの商人たちを説き伏せる事に成功した。

 

 

また、懸念されていた古灯台の建造物としての価値についても、

外観を完全に残す事になるそうだ。

 

灯台の光は、漆黒に包まれる夜の海における

道標となる役割を果たさなくてはならない。

 

その灯りが船から見える為には一定の高さが必要となるが、

灯りの基点に建造物ではなく雲を利用して解決するという魔法装置が、

魔術大学から提供される事になったのだ。

 

その原理は、地上から雲に向かって一条の光を放ち、

照らされた雲を灯台の明かりに見立てる、というものだ。

 

もちろん、流れる雲を捉える事は通常では不可能なのだが、

雲を生み出す元となる空気中の水分を収束する魔法装置によって

言わば雲を集め続けることで、建造物無しに

高い位置の灯りを確保し続ける事ができる、というわけだ。

 

この「雲を集める装置」を開発した魔術大学の魔術師は、

この技術は自身の趣味の為に開発したもの、と

多忙を理由に完成を待たず去っていったが、

もうじき試験運用も終わり実用段階に入ると言うことだ。

 

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巻頭付録    古灯台のしおり

巻末挿絵    実験を重ねる魔術大学の学生たち

応募プレゼント リーブルフォート航路定期船無料チケット

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イブラシル暦 689年05月

週刊 イブラシルゴシップ

皇帝ダバロスが消息不明であるとの噂が真実味を帯びてくる一方、

皇帝と彼の片腕である宮廷魔術師の消息が掴めなくなった事で

バルバシアが侵略戦争を起こした経緯を明らかにするのは困難になったとも言える。

 

 

現在より遡る事3年、緊張の極みにあったティターニアで

一世を風靡した世紀の与太話、風刺ビラに書かれた

 

“耳栓を求めて始めた戦争”

 

という、まずは有り得ないであろう風説の否定ですら困難となった。

 

かの風刺ビラを作ったのは我である、と吹聴した人間は

この3年の間に数十人程名乗り出たようだが、

実際に作成した人物は今もなお明らかになっていない。

 

しかし現在、その人物を特定しようという動きが、

ティターニア政府内で起きているという。

 

その理由とは「かの風説の真偽を確かめる為」と言うわけでは、当然無い。

 

ここ最近をティターニア騒がせている、

ティターニア初代のオベロン王に関する風刺ビラの作り主と同じと目されているからだ。

 

 

時折噂が立っては消えてきた王の逸話だが、

その名もイブラシルゴシップと呼ばれる風刺ビラは

 

これまでに世に出た様々な噂を数多く網羅し、

大小様々な尾ひれを加えて編纂されたものであり

信憑性の有無に関しては相変わらずなものの、静かに広がりを見せている。

 

現状ではオベロン王に関する研究が

限られた人間にしか許されていない事を踏まえるならば

 

その中にほんの一割でも真実が含まれているなら、

ティターニア政府が躍起になるのも頷ける話だろう。

 

 

気になるイブラシルゴシップの次回予告だが、

タイトルは「オベロン王32柱の碑」となっている。

 

この数字の意味するところが、

オベロン王失墜の決定打となった秘蔵品の事を指すのならば、

執筆者の確保はまさにティターニア政府にとって

威信を賭けた捜索となるかもしれない。

 

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巻頭付録    

巻末挿絵    

応募プレゼント

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イブラシル暦 689年06月

週刊 未来と過去を結ぶ環

イブラシル古代史の研究に、最近になって大きな進展があったとの事だ。

 

かねてより行われていた帰らずの鍾乳洞奥・地底湖の調査で、

大瀑布から捧げられた生贄が身に着けていた強力な水の魔力を持つ指輪が

ついに見つかったのだ。

 

 

地底湖における水難が研究者達の命すら脅かし続け

調査は非常に難航したようだが、この地を訪れた冒険者達の勇気によって

件の指輪が持ち帰られ、伝説に語られる指輪の力が立証されたのだ。

 

生贄と言う原始的で野蛮な習慣と、

高度な魔法技術がいかに同居していたか、という謎は残るが

指輪という研究素材が次々と発見されているので、

今後の研究もスムーズに進むだろう。

 

 

研究者達の拠点は再びイブラシル中央部へと戻ったが、

帰らずの鍾乳洞は新たなる訪問者達でなお賑わっている。

 

それは他ならぬ冒険者達で、その目的は当然、

この地にまだまだ眠ると思われる指輪の獲得であった。

 

今回の発見により、大瀑布から捧げられる男女の逸話も広まる事となったが、

特に恋人同士にとっては 『男女が死してもなお離れず土地神の元へ辿り付く』

という部分にあやかりたいらしく、

互いの永遠の愛の証として、この指輪を求める者たちが出てきたようなのだ。

 

 

もっともこの指輪、場所が場所だけにそう容易く入手できる代物では無いのだが、

旅商人たちの手により早くもレプリカ品が流通し始めているという。

 

便乗品と侮るなかれ。

饅頭よりも日持ちし、石灰石の小物類に比べれば頑丈、運搬もし易いため

指輪の逸話の広がりに追いつく勢いでイブラシル全土にブームを巻き起こしつつある。

 

一つの指輪を挟んで相対する過去と未来。

そのどちらからも、目が離せない。

 

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巻頭付録    ハウミア・カタログ

巻末挿絵    ハウミア・レプリカを並べるパラスの行商

応募プレゼント ハウミア・レプリカ(オーダーメイド)

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イブラシル暦 689年07月

週刊 樽齧り、土産化!

知らぬ者が聞けば首を傾げ、知る者が聞けば耳を疑うであろう。

なんとあの“樽齧り”が土産物として店先に並んでいるのだという。

 

酔いどれ達をあしらう冗談かとも思ったが、

思いの外多くの店で見かける事が出来る。

あくまでもそれなりにでは有るが、売れ行きも良いとのことだ。

 

材料が魚であること、特殊な調合薬と製造法を用いている事以外は

殆ど秘密にされているが、

ほんの1年ほど前にあちこちの酒場で目撃された

“樽齧り”の魔術師が関わっているとの事だ。

 

 

恐らくエルクアール魔術大学の研究者と思われ、

「研究は本物‥」「俺は本当に見た‥」

と呟いては周囲に向かってくだを巻いていたが

 

“樽齧り”と揶揄する他の客に対し

「存在しない物の喩えで俺を呼ぶな!」と立腹しては

喧嘩騒ぎになるのが常だったという。

 

しかしある日、数十回と重ねられた件の騒ぎの後、去り際に魔術師が

「だったら、本物の樽齧りを作ってやろうじゃないか」

と啖呵を切って出て行った。

 

それを最後に魔術師はしばらく姿を見かけなくなるのだが、

それからしばらくして彼が再び姿を現しだすと共に、

市場に“樽齧り”が出回るようになったと言うのだ。

 

 

強い塩気と独特の堅さと食感が酒飲み達に受けているようで、

地元だけでなく土産話とセットで樽齧りを購入していく旅人もいるそうだ。

 

とはいえさすがに色物扱いなので、

例えばグルメ誌『星の道標』への掲載にはまだまだ遠い。

 

樽、もとい石に齧りついてでも土産の全国区化を目指したい所だが、

もしその当人が一日中酒場に入り浸っているならば、実現は少し遠回りしそうだ。

 

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巻頭付録    アステリア名物酒場MAP-689-

巻末挿絵    樽齧り有り□の看板

応募プレゼント 樽齧り5種盛り合わせ

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イブラシル暦 689年08月

週刊 バルバシアの名店

20数年もの間止まっていたバルバシアの時が、

ようやく動き出そうとしている。

 

以前より噂に上っていた皇帝の無数の影武者部隊や

宮廷魔術師の幻術も大半が破られたらしく

既に皇帝その人も討たれたとも言われているが、

より確実な情報が待たれるだろう。

 

 

長期に渡る封鎖は産業を縮小させ、

人々を消耗させ、街の活力を奪ってきた。

 

街の機能全てが戻るまでにはまだ時間がかかるだろうが、

いち早くのれんを回復した店もある。

 

その筆頭としては、まずはシダーズカフェだろう。

 

いつでも営業再開できるよう、炭酸を仕込む機械の整備と

技術の継承とを怠らなかった心構えの賜物であり、

特筆に価する早さの復活であった。

 

アストローナの特産品が届くようになれば、

更なる新しい味覚を味わえる日が来るだろう。

 

 

また、前回掲載で問い合わせの多かった

「最後の晩餐(店名は都合につき仮称)」だが、

 

役割を終えたかと思いきや、常連の声に押され

変わらず隠れ営業を続けるそうだ。

 

 

一方已む無く閉めてしまった店舗も多い中、

その空き店舗に新たに店を出した者たちもいる。

 

大平原の行商人だった男が出した店、

大平原の英雄“荒男矜”の名を関する食事処は

近くて遠かった大平原の特産が味わえると有り、

物珍しさもあって盛況が期待されている。

 

 

厳密には店舗では無いのだが、

街を離れていた吟遊詩人たちも街に戻りつつある。

 

芸術の都でもあったバルバシアの街から様々な音が離れ20数年が経過したが、

永かった沈黙の季節から目覚めるかのように、

彩り豊かな演奏が聞こえ始めているのは、喜ばしい事だ。

 

そんな吟遊詩人たちの声に乗って、

海を渡りやってきた冒険者達の英雄譚やアストローナの風土などを

表現した歌も聞こえるようになった。

 

まさに、新しいイブラシルの姿を想起させる光景だと言えよう。

 

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巻頭付録    シダーズ・リカバー・チケット

巻末挿絵    街角のセッション

応募プレゼント シダーズカフェ試飲フェスタ招待券

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イブラシル暦 689年09月

週刊 最果ての果てにて

ノアトゥーン話題の逸品・真紅の宝石箱を食する機会を得た、

という声をよく聞くようになった。

 

製法・調理法こそ特殊ではあるが、

その素材自体は豊富な食材という事もあり

各地の料理人が試行錯誤を始めているらしいので、

いずれもっと身近な料理になるのだろう。

 

元より最果ての地として知られるこの地は

イブラシル本土の国家から見向きされる機会は少なかった。

 

だが、強さと栄光を求める冒険者たちが

数多くイブラシルを訪れ、大陸を駆け巡った事は

一つの契機となった。

 

稀有なる価値を秘めた特産品と多くの魔境が

彼らの血肉となり、新たなる血が通い始めた事で

この最果ての地に再び火が灯った、というのは言い過ぎだろうか。

 

亡者の沼地やグニタ荒野までもが踏破された今、

私はこの戦争の因果を思わずにはいられない。

 

 

ところでもう一つ、ノアトゥーンのサーモンに関して

それ以上に気になった話題がある。

 

南洋へ繰り出した漁船では時折、

身の赤くないサーモンが網にかかるという。

 

特に風味に問題があるわけではないが、

市場を惑わす事を危惧し大抵は船上で捌いてしまうそうだ。

 

サーモン(とその卵)の赤い色については、

一部の研究によりサーモンの餌が深く関係するそうだが、

更に漁場の南へ下ると、非常に稀にだが、

身の青がかったサーモンが取れる事が有るのだと言う。

 

さすがにこの色をしたサーモンを口にした漁師は

居ないとの事だが、この青いサーモンは

ノアトゥーンから離れた南洋への漁の際に捕れる事が多いのだそうだ。

 

 

サーモンの鮮度や積める漁具の問題から、

よほどの不漁でなければそこまで行く事は無いそうだが、

時折厳選された釣具を携えて南へ赴く猛者も居ると言うから、驚きである。

 

さて、この極めて希少な青いサーモンだが、

過去には大量に捕獲された例も有るという事だ。

 

《次週 週刊紫眼の塔へ続く》

 

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巻頭付録    サーモンステーキ型文鎮

巻末挿絵    大小さまざまな漁船が停泊する港

応募プレゼント 真紅の宝石箱

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イブラシル暦 689年10月

週刊 紫眼の塔

青いサーモンに関する噂を集めるうちに辿り付いたのは、

ミルシアを出た中型の漁船がイブラシルの南海で霧に覆われ

漂流するさなかに、立て続けに希少な青いサーモンを釣り上げたという逸話だった。

 

実はこの逸話自体は、

漁船が霧の中で出会ったもう一つの逸話に埋もれていたのだ。

 

 

その逸話とは、霧の中に浮かぶ神出鬼没の塔・紫眼の塔の目撃の逸話である。

 

漁船が霧の中彷徨った海域では、未だ塔が目撃されたという話は無い。

しかし、霧が通常の航海では2週間はかかる距離に跨る規模で発生し、

その霧の中漁船が青いサーモンが獲れる海域まで引き摺られていたとしたらどうか。

 

 

漁師たちは漁場の季節毎の海流は熟知しており、

そのような海流の存在など信じないだろう。

 

しかし視界の利かない霧の中、波面や霧を孕む海上の空気毎引き摺られては、

漁師達もそれが海流だとは気付かないかもしれない。

 

まして海上もまた未開の秘境、何が起きても不思議は無い。

霧は迷宮ではなく、入口に過ぎなかったのではないだろうか。

 

サーモンの身を青く染めあげる程に、青い生物が数多く住まう不可思議な海。

んな海が有るならば、それはまさに『まだ見ぬイブラシル』であるに違いない。

 

 

新たなる旅の予感は、思わぬ所から突然現れるものだ。

この刊を最後に、私は一旦筆を置こうと思う。

 

これまでは誰かが見つけた、誰かが作った

『まだ見ぬイブラシル』を紹介してきたが、今度は私自らが見つけた

『まだ見ぬイブラシル』を皆さんに紹介したいと思ったからだ。

 

見つけるまで少々時間はかかるかもしれないが、

いつかその日までこの書の事を覚えていて戴ければ、幸いである。

 

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巻頭付録    週刊紫眼の塔・歴代表紙

巻末挿絵    紫眼の塔(予想図・イラスト)

 

帯:イブラシル探訪 休刊のお知らせ

 

今回をもちまして、『イブラシル深訪 週刊紫眼の塔』は休刊となります。

6年もの間、皆様にご愛読頂けた事に深く感謝致しますと共に、厚く御礼を申し上げます。

皆様の旅がこれからも充実したものになりますよう、心よりお祈り申し上げます。

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【謝意】※5周年の挨拶

 

イブラシルを愛する数多くの読者の皆様に支えられ、

ついに初回刊行より5周年を数える事となりました。

 

今後もイブラシルの良さを共に伝え合う同志として、

記事の制作に挑んで行きたいと思います。

 

また、別出版ではありますが、

Rの手記様主催のアンケートにて今回多数の投票を頂き、

誠に有難うございました。

 

本誌より長い歴史を誇る各誌と肩を並べるという

身に余る栄誉に身震いすると同時に、

今後の励みにさせて頂きたいと思います。

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